今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。
「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。
巽 啓伍が考えるアナログ・レコードの魅力
再生環境をある程度整えた場所で、針を落として音が流れた瞬間に、それらを録音した空間に同席しているような生々しさを感じられる事だと思います。
V.A『FRAGMENTS Du monde flottant』
アーサー・ラッセル(Arthur Russel)、ヴァシュティ・バニヤン(Vashti Bunyan)、ホドリーゴ・アマランチ(Rodorigo Amarante)等そうそうたるメンツで即購入。 デヴェンドラ・バンハート(Devendra Banhart)先生のキュレーションによる彼の周辺アーティストのデモ集だったようです。 終始リラックスした空気で進むレコードは、彼の横で珈琲を飲みながら、彼の友人達の演奏を間近で聞いているようです。
Norio Maeda meets Tin Pan Alley『Soul Samba-holiday in brazil-』
ジャズピアニスト・前田憲男さんがバックバンドにティン・パン・アレー(Tin Pan Alley)を迎えて録音されたサンバのクラシックトラックをカバーしたアルバム。 バート・バカラック(Burt Bacharach)「the look of love」のカバーは必聴です。 ジャケットの和彫りは実際に彫られてる方の写真だそうです。 和彫りミーツサンバとはもう訳がわからなくて問答無用で好みです。
Paul Humphrey『Supermellow』
ベースがチャック・レイニー(Chuck Rainy)、ピアノはジョー・サンプル(Joe Sample)。 何よりアコーディオンにニック・デカロ(Nick Decaro)。 彼はロジャー・ニコルス(Roger Nichols)や、ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)などの作品にも参加していることで有名ですが、何より僕は彼の「Italian Graffiti」という作品が大好きなので、迷う選択肢はありません。 内容もファンク/ソウル/ジャズなどジャンルを軽やかにクロスオーバーさせる様は、決して重くなること無く、流石、手練達の所業としか思えないのです。
DAUNIK LAZARO/NINH LE QUAN/MICHEL DONDA『CONCERT PUBLIC』
ソプラノサックス/テナーサックス/パーカッションという変則的なトリオの表記に惹かれました。
各楽器が土着的な空気を纏いながらも、間を生かした洒脱な演奏によって演出される即興空間に没入できます。
フランスのOCORA(オコラ)やSmithonian Folkways Recordings(スミソニアン・フォークウェイズ・レコーディングス)周辺のフォークロア好きにも響きそうです。
A_R『about time EP』
趣味でミニマルテクノのDJをしているのですが、ミニマルにハマって数年、驚くほどに変名が多いことに気付きました。 この作品は、アンドレイ・チュブーク(Andrei Ciubuc)というルーマニアのアーティストのレーベル・Draganeniiから出てるA_Rという方の作品なのですが、実はA(ndrei Ciubuc)×R(hadoo)でA_Rだそうです。 ラドゥー(Rhadoo)といえば、ペトレ・インスピレスク(Petre Inspirescu)やラレッシュ(Raresh)と共にRPRサウンドシステム(RPR Sound System)というユニットを組んでおり、ジップ/ペルロン(ZIP/Perlon)、リカルド・ヴィラロボス(Ricardo Villalobos)の登場以降を分かりやすく世代化させたルーマニアン。 a:rpia:r(アーピアー)というレーベルの主宰の1人で、私の好みにピントが合いすぎている方です。 今回のパターンは非常に分かりやすい例でして。 ラドゥーはNea Marinという変名もあるのですが、こうなるともう手掛かりが無さすぎて、手が掛かります。 他にも変名をご存知の方がいましたら是非教えてください。 しかしミニマルの方々は偏屈でユーモアのある方が多いですね。
巽 啓伍(たつみ けいご)
音楽家/写真家
1990年兵庫県生まれ、東京都在住。 2014年よりnever young beachのベーシストとしてキャリアをスタート。 国内外で活動中。 写真家としても、作品制作を中心に個展『+81886133』(2020/愛知・静岡)、『oru』(2021/大阪)開催。
never young beach
Edit: Ayumi Kaneko