音楽の周りにいる人たちには、収集癖のある人が多い!? そんな仮説をもとに、ミュージシャン、DJ、作曲家……さまざまな形で音楽に関わっている人のお部屋にお邪魔し、その収集癖と音楽との関係性を炙り出す連載。

第1回目は、 “ミニ博物館級” と言っても過言ではないほど民族楽器をコレクションしている本田みちよさん、池内万作さんご夫妻。 本田さんはWEB上の音楽番組「MUSIC SHARE」の運営で、池内さんは俳優として、活躍されている。

おふたりの収集癖の理由を紐解いていくと、民族楽器特有の魅力や、さらにコレクションを使ったおふたりの今後の企てが見えてきた。

体調不良から救ってくれた民族楽器の魅力。

民族楽器を集め始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

池内:民俗楽器を集めるきっかけになったのは、シンギングボウルです。 一昨年の年末に二人とも体調を崩してしまって、癒しの音を探し求めていたんですね。

本田:お互いメンタルの調子が悪くなってしまっていたので、ネットで癒しについて色々と調べていたんです。 そうしたら、「528ヘルキロヘルツが癒しの効果のある音である」という話が出てきて。 実際に効果が知りたくて〈MEINL(マイネル)〉の「ソニックエナジー」シリーズのシンギングボウルを購入しました。 鳴らしてみると、528ヘルキロヘルツの効果かどうかは分かりませんが、なんとなくほっとするような、すごく気持ちのいい音だったんです。

スティックを用いて縁を叩いたりこすったりすることで、独自の癒しの音色、倍音を奏でることができる。 シンギングボウルが奏でる「倍音」とは基本的な音の複数倍になっている振動のことで、心地よさやヒーリング効果があるとされている。 (出典:国際シンギングボウル協会)
スティックを用いて縁を叩いたりこすったりすることで、独自の癒しの音色、倍音を奏でることができる。 シンギングボウルが奏でる「倍音」とは基本的な音の複数倍になっている振動のことで、心地よさやヒーリング効果があるとされている。 (出典:国際シンギングボウル協会

池内:当時はずっとこればっかり鳴らしていましたね。

本田:シンギングボウルが出発点になり、その後も癒しの音を求めて、取り憑かれたように探しまくったんですね(笑)。 地元である京都の〈民族楽器 コイズミ〉では、カリンバを購入しました。 変わった民族楽器がたくさん置いてあって、小学生の頃にはカスタネットやトライアングルを買ったことのある、思い入れのあるお店です。 〈コイズミ〉で店員さんに528ヘルキロヘルツの話をしたら、「あれは、どうですかねぇ〜」といぶかしんでいたのですが(笑)。 科学的な根拠のあるなしにかかわらず、やっぱり民族楽器の音は癒されるなという体感があります。

アフリカ大陸に広く分布している親指ピアノ。 カリンバという名前で親しまれているが、国や地域、部族によって色々な呼び方があり演奏方法もさまざま。 細長い金属のキーを指で弾くことから、オルゴールやピアノの原型であると言われている。 弾き手によってはまるで数人で合奏しているような複雑な音色が浮かび上がる。 (出典:民族楽器コイズミ)
アフリカ大陸に広く分布している親指ピアノ。 カリンバという名前で親しまれているが、国や地域、部族によって色々な呼び方があり演奏方法もさまざま。 細長い金属のキーを指で弾くことから、オルゴールやピアノの原型であると言われている。 弾き手によってはまるで数人で合奏しているような複雑な音色が浮かび上がる。 (出典:民族楽器コイズミ

癒しを得られるものは音以外にもあると思いますが、なぜ民族楽器の音に行き着いたのでしょうか。

本田:最初は、癒しになるものは音以外にも探していました。 コスメブランドのアロマティックスプレー全種類買ってみたり。 なかなかに追い詰められていたので、音だけでなく香りなんかも探していましたね。 でも私は音楽がやっぱりすごく好きなので、音の方がメンタルヘルス的な効果を感じられた。 とても元気になったんです。

民族楽器について語る本田みちよ氏

楽器にもさまざまな種類がある中で、民族楽器に惹かれたのはなぜだったのでしょうか。

本田:高度な技術がなくても簡単に音が出せる、というのは大きいです。 「自分にもできた!」という嬉しさがある。 人間は行動しはじめるときに一番エネルギーを使っていて、80%の労力がかかるという話を聞いたことがあります。 ということは、初動の労力が軽ければ、あとの行動が楽になるんです。 気軽に音が出せる民族楽器を鳴らせば、「今日は曲を作ろうかな」「録音してみようかな」という気持ちが芽生えてくるので、とても良いウォームアップになるんですね。

民族楽器について語る池内万作氏

池内:僕が民族楽器が魅力的だなと感じるのは、自分の中にないスケールを持っていること。 知らない場所への旅行にも似ているような感覚があって、すごく刺激をもらいます。 僕はクラブにも行かないのになぜかダンスミュージックばかり作っているんですが、その制作過程は誰かがサウンドデザインした音やサンプルベースの音などを引っ張ってきて、パソコン上で音を紡ぎ合わせていくという作業。 それに対して民族楽器を弾いているときは、原点に立ち返るようなプリミティブさがあるんです。

気持ちのいい音楽部屋の、ミニ博物館級民族楽器コレクション。

おふたりの住処は、気持ちの良い風がなびくログハウス。 部屋からは青々とした木々の奥に海が望むことができ、庭には池内さんが子供だった頃からあるというフレッシュな柑橘の木が植わっている。 7匹の猫が行き交うリビングを通り奥に向かうと、たくさんの機材に囲まれた音楽制作部屋にたどり着く。

その中でも特に異彩を放っているのは、見慣れない民族楽器の数々。 数えきれないほどのコレクションの中から思い入れのある楽器を一部紹介、そして実際に音を出してもらった。 さらに、最後には即興で民族楽器を組み合わせた演奏を披露してくれた。

ログハウスにある音響機器

一番音が面白いと思う楽器はどれでしょうか。

本田:デスホイッスルは、一番想像を超えてきたかもしれません。 小さいのにまさかあんなに大きな、しかも断末魔の叫びみたいな音が出るとは思わなかったので(笑)。 たまたまAmazonで見つけたんですが、結婚記念日だし買おうと思って(笑)。

池内:記念日だし7000円くらいの出費はいいだろうって言ってね。

本田:アステカ文明の人たちは「神様の力は衰えていくものだ」という妄想に囚われていたらしく、それをなんとかするために生贄の儀式のときにこれを吹いて神の力を取り戻していたらしいんですね。 調べれば調べるほど、どんな音がするのか気になって購入しました。

池内:小学生に首から下げて持たせたら、防犯グッズになるかもしれませんね(笑)。

「断末魔の叫び」という表現がまさにぴったりな音を発するデスホイッスル。 吹いてもらうと、本田さんたちの飼い猫たちが一目散に逃げていった。 頭蓋骨のかたちをしたこの楽器は、1999年にアステカ文明の遺跡から出土した20代男性の骨の中に見つかったという。 敵の戦意を喪失させるため、または生贄の儀式の際に使われたという説もある。 (出典:ナゾロジー)
「断末魔の叫び」という表現がまさにぴったりな音を発するデスホイッスル。 吹いてもらうと、本田さんたちの飼い猫たちが一目散に逃げていった。 頭蓋骨のかたちをしたこの楽器は、1999年にアステカ文明の遺跡から出土した20代男性の骨の中に見つかったという。 敵の戦意を喪失させるため、または生贄の儀式の際に使われたという説もある。 (出典:ナゾロジー

これが欲しい!と衝動が走る楽器に共通点はありますか。

本田:ぱっと見て音が分からないものには好奇心がくすぐられますね。

池内:ドローンフルートも1台でハモったような音が出せるなんて、見た目からは想像がつかないですよね。 僕は小学2年生から中学校くらいまでフルートを習っていたので親しみがあるのですが、ドローンフルートは新鮮な感覚になるので気に入っています。

北アメリカの先住民が古くから吹いていた木製の縦笛、ネイティブアメリカンフルート。 その中でもドローン管(演奏中に同時に伴奏音を鳴らす通奏管)がついているものをドローンフルートという。 一台で、同時に2種類の音域が楽しめる。 同じドローン管を持つ楽器としては、バグパイプがある。 (出典:民族楽器コイズミ)
北アメリカの先住民が古くから吹いていた木製の縦笛、ネイティブアメリカンフルート。 その中でもドローン管(演奏中に同時に伴奏音を鳴らす通奏管)がついているものをドローンフルートという。 一台で、同時に2種類の音域が楽しめる。 同じドローン管を持つ楽器としては、バグパイプがある。 (出典:民族楽器コイズミ

池内:民族楽器は、人があまり持っていないというのも心をくすぐるポイントですね。

本田:電樂一さんが作ったケトルスプリンガーはまさに、日本で5〜6人しか持っていないというレア物です……!

京都を中心に活動している電樂一さんが自作で作った楽器。 スプリングドラムという楽器の原理をやかん(ケトル)に落とし込み、作られている。 サンダードラムやストームドラムという別名もあるスプリングドラムからは、嵐のような音が鳴る。 ケトルスプリンガーはやかんの中に水を入れて鳴らしてみると、天と地が同時に震えているような、さらに独特な音を発する。
京都を中心に活動している電樂一さんが自作で作った楽器。 スプリングドラムという楽器の原理をやかん(ケトル)に落とし込み、作られている。 サンダードラムやストームドラムという別名もあるスプリングドラムからは、嵐のような音が鳴る。 ケトルスプリンガーはやかんの中に水を入れて鳴らしてみると、天と地が同時に震えているような、さらに独特な音を発する。

本田:「カンカン石」は、正式にはサヌカイトという石で、香川県などで採れるものです。 私たちが持っているものはメルカリで買ったんですけどね(笑)。 四国では川にカンカン石が落ちていると聞いたので、探しに行って採取できたら、近所の石切場に持っていって好みの音階になるように切ってもらいたいんです。

約1300万年前の瀬戸内海地域の火山活動によってできたものと考えられており、「讃岐」から名付けられている。 (出典:香川大学博物館)
約1300万年前の瀬戸内海地域の火山活動によってできたものと考えられており、「讃岐」から名付けられている。 (出典:香川大学博物館

本田:戦(いくさ)が始まりそうな音がするのは角笛ですね。 1本目に買ったものが、意外と良い音が鳴らなかったので、2本目を〈コイズミ〉で購入しました。

池内:京都には楽器を買いに行っているようなものですね(笑)。

角笛は、金管楽器であるホルンの先祖。 象や牛、バッファローなどの角から作られていたが、中世ヨーロッパの騎士たちの間では特に象牙製の角笛が愛好されていたという。 中世では、晩酌の盃としても使われていたという記述も残っている。 (出典:ヤマハ)
角笛は、金管楽器であるホルンの先祖。 象や牛、バッファローなどの角から作られていたが、中世ヨーロッパの騎士たちの間では特に象牙製の角笛が愛好されていたという。 中世では、晩酌の盃としても使われていたという記述も残っている。 (出典:ヤマハ

本田:スリットドラムは、歴史の中でも割と古い木管楽器みたいです。 昔は木をくり抜いて、穴や筋を開けて叩いていたらしいですね。 音も原始的な要素が強いです。

中が空洞になっている打楽器で、上部にスリットが設けられており、そこを叩く事で全体が共鳴しながら音が出る仕組みになっている。 鉄製のものもあるが、おふたりが持っているものは木製で、木そのものの優しくあたたかな響きが楽しめる。 (出典:MyDrums)
中が空洞になっている打楽器で、上部にスリットが設けられており、そこを叩く事で全体が共鳴しながら音が出る仕組みになっている。 鉄製のものもあるが、おふたりが持っているものは木製で、木そのものの優しくあたたかな響きが楽しめる。 (出典:MyDrums

池内:うちにはドラが2枚あって、それにはちょっと変なエピソードが……(笑)。

本田:ドラがずっと欲しくて探していたら、ちょうどアメリカの会社がeBayで販売していたんですよ。 スマイルの柄で「すごい可愛い!」と思って購入したら、3ヶ月経っても届かなくて。 問い合わせると、「もう到着してるはず」と言われたんですが、「え、届いてないよ」と。

池内:仕方ないので普通のドラを買って、自分たちでわざわざシールを貼ってスマイル柄にしたんですね。 完成して「良いじゃんこれ!」って満足していたときに、

本田:なんとeBayで購入した方が届いたんですよ(笑)。

ゴーン、という音が気持ちの良いドラ。 本田さんは「お風呂に入っている感じの癒し系の音ですよね」と語ってくれた。
ゴーン、という音が気持ちの良いドラ。 本田さんは「お風呂に入っている感じの癒し系の音ですよね」と語ってくれた。

コレクションと音楽、コレクションと仕事との関係性。

集めた民族楽器はどのように楽しんでいますか。

本田:日常的に鳴らしたり、楽曲を作るときに使ったりしています。 実は、今年中に民族楽器にフォーカスした曲をリリースできたらと思っているんです。 夫婦のユニットで、せっかくこんなに民族楽器がたくさんあるから始めようと。

池内:自主制作的な曲作りは、今まで個々でやることが多かったのですが、これから一緒にやってみようと話していて。 角笛にフィーチャーした曲は少しお笑い要素もあって面白くなりそうです(笑)。

本田:配信を想定していますが、海外のレーベルで出せたりしたら嬉しいですね。

角笛にフィーチャーした曲は少しお笑い要素もあって面白くなりそう

民族楽器コレクションがお仕事と結びつくことはありますか。

本田:「MUSIC SHARE」というWEB上の音楽番組をやっているのですが、そこでは私がブッキングしたミュージシャンに実際に演奏してもらったライブ映像と、かれらの音楽づくりについて掘り下げるインタビュー映像を合わせて一つの動画にし、配信しています。 自分も日頃から楽器を触っていると、特にインタビューのときにミュージシャンと共鳴しやすいですね。 同じ楽器を持っていたりすると話が盛り上がります。

「MUSIC SHARE」は今年で11年目ですよね。 始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

本田:ミュージシャンとして、自分の音楽をもっと広く知ってもらうための映像メディアが当時なかったので、自分で作るしかなかったんです。 今は一旦おやすみしていますが、その間もYouTubeの視聴数も増えているし、「どうしたら出られますか」というお便りもいただくので、そのうち再開したいなと思っています。

お二人の収集癖は民族楽器だけではなかった……!

よく見ると、ご自宅にたくさんの猫グッズが……。

本田:猫の置物は今でも集めていますね。 エジプトの猫シリーズはイギリスの大英博物館で買ったもの、バカラの招き猫、友達が作った九谷焼のお皿……かなりたくさんありますね(笑)。

猫の置物コレクション。 一番下の段は、飼い猫のエサ入れ。
猫の置物コレクション。 一番下の段は、飼い猫のエサ入れ。
猫の置物コレクション
猫の置物コレクション

池内:魚の形のものも好きだよね。 かなりやらかしている感じが(笑)。

本田:狂ったように集めてしまうんですよね……。 万作さんに「もう置けないよ」とストップをかけられるときも(笑)。

お弁当についている魚型の醤油差しを模したグッズたち

本田:お弁当についている魚型の醤油差しを模した照明器具がお気に入りです。

池内:下の受け皿に撒いてある小さな醤油差しは本物なんですよね(笑)。 みちよさんが「ここに置いたらハイセンスになって良さそう」と言い出して、近所のホームセンターまでわざわざ買いに行きました(笑)。

お弁当についている魚型の醤油差しを模した照明器具

本田:ちょっと抑えないと……と思いつつも、収集癖は昔からすごいんです。 高校生のときは枕木(電車のレールの下に敷かれる材)に打ってある釘をひたすら集めていました。 デイトネイルと犬釘の2種類を収集していたんですが、母に間違って捨てられて、すごく怒った思い出も(笑)。

池内:猫もコレクションしてるのかもしれない……(笑)。

ログハウスで暮らす猫ちゃん

音好きに収集癖のある人が多いとしたら、それはなぜなのでしょうか。

本田:思い込みが激しいんじゃないかな(笑)。

池内:集中力が高かったり、一つのものに興味を持つとそっちに向かって突っ走ることが多いからかもしれません。 僕たちも完全にそういうタイプですね。

本田みちよ

京都出身。 10歳より京都市少年合唱団(ソプラノ)で小澤征爾指揮のボストン交響楽団、ウィーン少年合唱団と共演するなど、幼い頃より音楽の基礎を学び、音楽を愛し、歌に親しむ。 ボーイソプラノのような透明感のある歌声が定評。 2012年からは『MUSIC SHARE』のプロデュースやコラボ企画など精力的に取り組んでいる。 現在、年内リリース予定のEPを準備中。

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池内万作

東京生まれの俳優。 米Peddie Highschool卒業後、ロンドンのリーストラスバーグで演技を学び、1995年に映画『君を忘れない』でデビュー。 『こちら本池上署』シリーズや『光の雨』、『寄生獣』、『相棒』など映画・テレビを中心に活躍。 最近の出演作は『らんまん』『どうする家康』。 2012年からは音楽番組『MUSIC SHARE』に参加し編集を担当。 現在、EPを制作中。

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Photos & Movies:Shoma Okada (RADIMO)
Words & Edit:Sara Hosokawa

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