この世の万物は常に変化するもの。時に時間は物を劣化させますが、その原因を知っていれば、取り返しがつかなくなる前に気をつけることができれば、大切なオーディオ機器を長く使い続けることができるかもしれません。前回、スピーカーはエッジやセンターキャップ、内部の配線にトラブルがあると故障してしまうことをご紹介しました。今回はアンプが壊れる原因について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。
スピーカーが壊れる原因について、詳しくはこちら
落雷で壊れる
スピーカーに比べると、アンプというのは動く部分、振動する部分がほとんどなく、そういう意味では故障しにくいコンポーネントといっていいのかもしれませんね。しかし、長年使ったいわゆる経年劣化を含め、どんなものもいずれは壊れるものです。
これまで私が経験した中で、アンプの一番劇的な壊れ方は、落雷に遭った時のことです。大雨でもなく、そう暗くもない朝7時頃の曇り空に、突然至近距離の落雷がありました。他の機器が壊れてなかったので直撃ではないと思うのですが、それでも当時使っていたパワーアンプ2台と、それにつながっていたスピーカーのリボン型トゥイーターが破損しました。
アンプは面倒見がいいことで有名な国内メーカーの製品でしたから、慌ててメーカーへ戻して修理をお願いしたところ、何と回路基板のパターンがはがれてしまっていて、回復不可能という診断でした。
また、こちらはアンプへ雷が直撃した例ではないものの、別の日の落雷では、今度はチャンネルデバイダーを直撃して回路が発振(後述)、猛烈な大振幅の低音を発したものですから、パワーアンプの出力段が焼けてしまった、ということがありました。
落雷事故を避けるには…
いずれの例も、いわゆる雷除けの「サージフィルター」を電源ラインへ挿入していたら、避けられた事故ではあります。しかし、オーディオ用に考えられていないサージフィルターを入れてしまうと、明らかに音質が悪くなってしまうことが多いのですね。
もっとも、それを嫌って装置を壊してしまった(それも2度までも)というのですから、深く反省するところではあります。で、わが家の電源ラインにサージフィルターが入っているかというと、それでもまだ入っていません。その代わり、雷がゴロゴロいい出したら、慌てて電源コンセントを引っこ抜く、ということを励行しています。
昨今は、オーディオ用に吟味された電源ボックスの中に、音質を損なわないサージフィルター内蔵のものがチラホラ出てきていますから、投資する価値があるのではないかな、と考えてもいるところです。
“大きな音”で壊れる?
雷ほどではありませんが、劇的なアンプの壊れ方をもう1つ。大きな音を出し過ぎるとアンプが壊れる、ということは、言葉でご存じの人はおいでかもしれませんが、実際に体験なさった人がどれほどおられるでしょうか。
実のところ、ただ大きな音を出してアンプの定格入力をオーバーしても、そう簡単にアンプは壊れません。内部に「保護回路」と呼ばれる装置が入っており、過大な出力を出そうとしてもアンプは停まってしまうことが大半だからです。そんな場合は、多くの製品でパイロットランプが点滅していることでしょうから、一度電源を落とし、しばらく待って入れ直したら、大半の場合は復活するものです。
一方、小さな音を再生している時に突然、パルス的な大振幅の信号が入ってくると、保護回路が働き切れずにアンプが故障することがあります。多くの場合、スピーカーを直接駆動する電力信号を発生させる「出力段」と呼ばれる回路が焼損してしまうことが多いものです。
こういう場合は、販売店へ修理に出すしかありません。古いアンプだと、焼けた出力素子(トランジスター)がもう流通していなくて、同等の動作をする別の素子へ取り替えられることがあり、そうなると若干なりとも音質傾向が変わってしまうのは避けられません。
もっとも、出力素子だけで音がガラッと変わってしまうというわけでもなく、例えばハキハキと明朗闊達な音の製品が、修理が終わったら穏やかでメロウな持ち味に変わっていた、などということはないでしょう。
電源のコンデンサーの劣化
そういう無茶な動作をさせなくても、アンプは時に壊れます。最も多いのは、電源コンデンサーの劣化です。
アンプに限らず、多くのオーディオ機器は、電源部に電源トランスと電解コンデンサー、ダイオードが用いられています。その電解コンデンサーが曲者で、年月の経過とともに内部が劣化して、必要な電気容量を溜められなくなってくるのです。最悪の場合、回路へ電力が送れなくなり、音が出なくなります。
コンデンサーには電解以外にもいろいろな方式があり、劣化の少ないものもあるのですが、それなのになぜ電解コンデンサーが多く用いられているかというと、大きさの割に溜められる容量が大きく、機器のコンパクト化に役立つからなんですね。物事には良し悪しがあるものです。
希望は捨てずに。修理ができるかもしれません
電源コンデンサーの劣化は、比較的容易に修理することが可能です。もっとも、こちらだって古いアンプに内蔵されているコンデンサーと同じものは、既に生産されていないものがほとんどでしょうから、別銘柄の同等品ということにはなるでしょうけれど。トランジスターと同じく、まったく同じ音にはならなくとも、それほど大きな違いなく戻ってくることと思います。
実は、電源部以外にもコンデンサーはいろいろな場所で用いられており、特に長い年月を経た電解コンデンサーは、劣化が進んで膨れ上がり、時に破裂することがあります。そうなるともう大変、コンデンサーに封入されている電解液が漏れ出して基板のパターンを冒し、回復不能のダメージを与えることがあるのです。
とはいうものの、腕のいい修理職人さんは、電解液をきれいに洗浄してから、破損した基板のパターンをたどり、そこへ銅線を這わせたりして導通を復活させてくれますから、愛着のある機器がこうなってしまっても、あきらめずに一度修理へ出してみることを薦めます。
電解液で損傷するのはもう致し方ありませんが、そんな事故がなくても、例えばトランジスターが基板とつながる脚が経年劣化で錆びて折損し、電気が通らなくなることがあります。こういう場合は、トランジスターの交換で事なきを得ることが多いようですね。
知らない間に回路障害が起きているかも
最近の、特にメーカー製アンプではほぼ見ることはなくなりましたが、アンプの故障で最も恐ろしいものは「発振」です。回路のどこかが障害を起こし、音楽信号以外に特定周波数の信号を作り出してしまう現象です。
特に故障した回路が無限ループになっている場合、その信号はどんどん大きくなっていき、さらにそれが人間の耳に聴こえない周波数だったりしたら、全く気づくことがないまま出力素子は焼け、電源回路は過負荷でコンデンサーが爆発し、スピーカーも特にトゥイーターが焼き切れる、という大惨事を引き起こしかねません。
最後にちょっと恐ろしい話をしてしまいましたが、この現象は私自身の長いオーディオ人生で、友人の自作アンプに起こった時に立ち会ったくらいしかありませんから、まぁおそらく皆さんの身にも降りかかることはないと思います。
でも、もしあなたのアンプが全然音楽再生もしていないのに、手で触れられないほど熱くなっていることを発見されたら、速やかに電源を落とし、修理へ出すことを薦めます。
いろいろ書いてきましたが、ほとんどのアンプの故障は一朝一夕に起こるものではありませんでしたね。皆さんの音楽ライフへ、大きな波風が立たないことを祈るばかりです。
Words:Akira Sumiyama