今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。
「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。
枝優花が考える「アナログ・レコードの魅力」
そこまで音楽に詳しいわけではないですが、仕事柄、音楽と向き合うことが多かったり、小さい頃ピアノを習っていたこともあり、映画音楽やクラシックが好きです。 映画音楽はスクリーンやスタジオで聴くことが多いので重低音が心臓に響いてくる感じで、ピアノは実際の生音で聴いてきたので鍵盤の木の重さを感じる面白みがあります。 音楽を聴く環境により、音の耳触りがさまざまで、その都度聴き心地が変わることを楽しんでいます。 そういった意味で、アナログ・レコードはデジタルで聴く鮮明な音よりも厚みやちょっとしたノイジーさが独特で、個人的には雨音を聴いているような感覚に近い心地よさを感じます。
あとはちょっとしたコレクション癖をくすぐる感じもありますよね。 国や時期によって同じアルバムなのにジャケットが全然違ったり。 街のレコード屋にフラッと立ち寄って、なんとなくいいなあと思って買ってしまうこともあります。
枝優花が「クレジット買い」した5枚のアナログ・レコード
荒井由実「ひこうき雲」
誰もが知る名曲ですし、いつ聴いてもいい曲っていう大前提。 手元に置いておきたい。 ジャケットがクラッシックの楽譜みたいでおしゃれで好きなのですが、特にこの黒帯が独特で(笑)。 「魔女か!スーパー・レディか!新感覚派荒井由実登場」って、今じゃ考えられないキャッチコピーが良すぎて買いました。 笑ってしまいつつも、いつまでも魅力しかない荒井由実さんは確かにスーパー・レディだし魔女だなと思います。
David Bowie『Let’s Dance』
そもそもこのアルバムが大好きで、もっと言うと「Modern Love」をいつでも聴けるようにしたいってぐらい好きなんですが……。 ジャケットの表面のボウイもかっこいいですが裏面のイラストが好きです。 月に向かってシャドーボクシングしている感じ、私の中でのボウイのイメージに近くて。
Various Artists『Trainspotting』
大好きな映画のサウンドトラック。 映画がイカしてるのは言わずもがなですが、とにかく音楽がかっこいい。 そしてやっぱりこのジャケットがたまらないです。 ただまた裏面の話になりますが、映画の中の名台詞が書かれていて、これが最高ですね。
「人生を、仕事を、キャリアを、家族を求める。 クソでかいテレビを、食器洗い機を、車を、CDプレーヤーを、電動缶切りを求める、健康を、低コレステロールを、歯の保険治療を求める。 固定金利の住宅ローンを、マイホームを、友だちを求める。 遊び用の服を、バカ高級な生地のスリーピースのスーツを求める。 日曜日の朝にクソDIYをして過ごすことを求める。 カウチに座って、ジャンク・フードを口に運びながらくだらないTV番組を見ることを求める。 腐った体をみじめな家でムダに過ごすことを求める。 未来を求める。 人生を求める。 どうして、こんなことを求めるんだ?俺は求めない人生を求めることを選んだ。 何かほかのことを。 何でかって?理由なんてないさ?ヘロインをやれば、理由なんていらない」
Mark “Rent-boy” Renton: [narrating] Choose Life. Choose a job. Choose a career. Choose a family. Choose a fucking big television, choose washing machines, cars, compact disc players and electrical tin openers. Choose good health, low cholesterol, and dental insurance. Choose fixed interest mortgage repayments. Choose a starter home. Choose your friends. Choose leisurewear and matching luggage. Choose a three-piece suit on hire purchase in a range of fucking fabrics. Choose DIY and wondering who the fuck you are on Sunday morning. Choose sitting on that couch watching mind-numbing, spirit-crushing game shows, stuffing fucking junk food into your mouth. Choose rotting away at the end of it all, pissing your last in a miserable home, nothing more than an embarrassment to the selfish, fucked up brats you spawned to replace yourselves. Choose your future. Choose life… But why would I want to do a thing like that?
(『Trainspotting』ジャケット裏面より)
キリンジ『Melancholy Mellow I 』『Melancholy Mellow II』
こちらは大変恐縮なんですが、自分がジャケット撮影を担当させていただいたもので……。 このベスト盤を出すのと同時にショートフィルムも制作させていただいたのですが、その内容を見た人だけがわかるように作品リンクした表面と裏面の構成でデザインさせていただいて、個人的に思い入れ深いです。 キリンジが韓国の若者から人気だと昨年ぐらいに耳にして、韓国人の友達から「アナログ・レコードカフェにあなたの撮ったレコードがあったよ。 キリンジを知らなかったけどジャケットが素敵だったから手に取ったの。 そしたらあなたが担当してるって聞いて連絡したよ」と言われて、嬉しかった思い出もあります。
Sufjan Stevens『Carrie & Lowell』
元々スフィアン・スティーヴンス(Sufjan Stevens)が好きでよく聴いていたのですが、このかたの音楽ってすごく耳触りが良くて絶対にレコードで聴いた方がいいよなーと思っていて。 22年の冬に韓国の梨泰院のアナログ・レコードやカセットを売っているカフェに立ち寄ったときに見つけて購入しました。 元々サブスクでずっと聴いていたので、このアルバムの裏面を見たことがなかったのですが、手に取って裏を見たときに愛しいものが写っていて、これは手元に置いておきたいと思ったのも購入の決め手の1つでした。
枝優花
1994年群馬県生まれ。 映画監督、写真家。
2017年、初の長編映画『少女邂逅』(主演:穂志もえか、モトーラ世理奈)がロングランヒットを記録。 MOOSIC LAB 2017では観客賞を受賞、海外映画祭でも評価される。 そのほかマカロニえんぴつ、羊文学、崎山蒼志、Awesome City Clubなど様々なアーティストのミュージックビデオ撮影や、アーティスト写真撮影も手掛ける。
監督演出最新作は、ドラマシャワー「ワンルームエンジェル」(MBSほか)、ドラマストリーム「瓜を破る〜一線を越えた、その先には」(2024年1月23日(火)〜TBSほか)。 OPテーマ「恋は盲目」(ヤングスキニー)のMVも手がけている。
Edit Takahiro Fujikawa