レコードプレーヤーを買った。 最初だからちょっと安めのものにしたけれど、もう少し高いのにしておけばよかったかなぁ…。 こんな風にお思いの人はおられませんか?そのプレーヤーがどれくらいのグレードのものかにもよりますが、大半のプレーヤーはちょっとした工夫やDIYで、大幅に音質を向上させることが可能です。 今回はオーディオライターの炭山アキラさんに、音質改善DIYを実際に行っていただきました。 その様子をお届けします。
キャビネットを重くして音を安定させたい
機構部分に手を入れたり、キャビネットを改造してしまったりすると、メーカーの保証や修理が受けられなくなってしまう可能性もありますから、ここでは本体へは手を付けない範囲で、音質向上の可能性を探ってみましょう。
プレーヤーはいかにプラッターを安定して回転させられるかが、高音質を実現するための大きな要素となっています。 そのために高級プレーヤーは、コストがかかっても重くて頑丈なキャビネットを用意するわけですが、比較的購入しやすい製品におのずと限界があるのは致し方ありません。
例えば、AT-LPW30 BKやAT-LPW50BT RWのキャビネットは、MDFの1枚板です。 上級のプレーヤーに比べると、しっかり勘所の押さえられたプレーヤーではあるものの、やはりAT-LPW30 BKで3.9kg、AT-LPW50BT RWで5.5kgと、軽量級といってよいデータです。
このキャビネットを仮想的に重量級のものとすることができれば、プラッターはさらに滑らかな回転をするようになり、不思議なことですが低音もどっしりと力強く聴こえるようになることがあります。 低音は音溝の振幅が大きいものですから、やはり土台がしっかり支えていると、それだけレコードへ込められた音が忠実に出てくるようになる、ということかなと推測しています
それでは、実際にキャビネットの重量を大きくし、強度を上げるにはどうすればいいでしょうか。 キャビネットのMDF板が分厚くできれば簡単なのですが、本当にそれをやろうとすれば大改造となり、もちろんメーカー保証は受けられなくなりますし、何より相当のDIY上級者でなければ、キャビネットへ取り付けられたパーツをすべて外して板の厚みを増し、元通りの精度で取り付けることは、困難だろうと推測できてしまいますね。
ならばどうするか。 キャビネットの底部に取り付けられているインシュレーター(脚)を外して堅い素材のものへ交換し、その下に分厚く頑丈な板を据えるのがよいと思います。
脚の素材は、それこそDIYで済ますなら適切な寸法に切った木材を必要な高さに重ねてもいいですし、例えばオヤイデのアルミ+カーボン製インシュレーターINS-BSのような既製品を使うのもいいでしょう。 ここの材質でも音質は大幅に変わってきますから、いろいろな素材で遊ぶことも可能ですよ。
脚の下へ据える板は、手頃なところで寸法に切ったMDFを重ねて分厚くするといいでしょう。 もちろん、この板材でも大きく音質は変わりますし、例えばベニヤ板の積層にして、ニスでも塗ってやると縞模様がきれいになりますよ。
実際に作ったのは、9mm厚のサブロク(910×1,820mm)ベニヤ板から450×450mmの板を8枚取り、それを張り合わせたものです。 これで8~9kgくらいになります。 そこへ、私が第2リファレンスとして愛用しているティアックのTN-570(生産完了)を載せ、音を聴いていきます。
まず積層ボードを床へそのまま置き、その上へデフォルト状態のTN-570を載せて音を聴きます。 うん、強度が高く重量もあるボードの上へ載せるだけでプレーヤー全体の音がしっかりして、細かな音が聴き取りやすくなり、ピシリと1本背筋の伸びたような音が楽しめました。
それでは、TN-570の脚、インシュレーターを取り去ってみましょう。 とはいってもここでは、金属製の脚を据えてオリジナルの脚を浮かせる方法でいきます。 今回の実験では手持ちの金属脚を使いましたが、前に紹介した通り、ここを100円ショップのぐい呑みなんかで補うことも、工夫次第で可能です。
しかしこの状態で音を出すと、特定の周波数の音が強く共鳴してしまう「ハウリング」が起こります。 音を出してみましたが、やっぱりブーとかボーという音が出ない音量でも、音に何となく不快な共鳴が乗ってしまいます。 これでは実用になりませんね。
そこで考えたのが、100円ショップで買ってきた小ぶりのゴムボールをココット皿へ収めた簡易インシュレーターです。 まったく誂えたようなサイズのものが見つかりました。 これをボードの下へ4点入れてやると、不快なハウリングは完全に抑え込むことができました。
プレーヤーのインシュレーターを避けて、ゴムボール・インシュレーターの上へ載せた積層ボードへセットし、音楽を再生すると、もう最初の1音からその効果は歴然、劇的なものでした。 ピシリと輪郭は決まっていたものの、軽量級といわざるを得なかった低音方向がどっしりマッシブになり、端正さを失うことなくパワフルで肉太のサウンドへ変貌したのです。 ボーカルにも情熱が加わり、歌手の体格が良くなったような印象を受けます。
ちなみに、ティアックTN-570へはオーディオテクニカのAT100E(生産完了)というVM型カートリッジが純正装着されています。 このカートリッジは新世代VMシリーズの交換針を装着することができますから、手持ちのVM530ENから交換針を外して取り付けてみました。
VM530EN
そうしたら、レコードの音がまた劇的な向上です。 接合楕円から無垢楕円に針先が変わったという以上の、圧倒的な音質向上に痺れます。 しっとりと艶を帯び、歌手の歌っている姿が目の前に見えてくるような、そんな再生音にしばし時間を忘れることとなりました。 VMカートリッジって、本当に”交換針道楽”が楽しめるよな、と実感する瞬間です。
オーディオテクニカのVMシリーズやAT-VM95シリーズの互換カートリッジは結構多くのメーカーで採用されていますから、交換針をちょっといいものにしてやるのは、とても簡単で有効な音質向上作戦になります。
今回の積層ボードは、ゴムボール・インシュレーターまで含めても3,000円かかっていません。 これで本当に劇的な音質アップを目指すことができるのですから、手を動かすことがお好きな人には、絶対的なお薦めですよ。
Words:Akira Sumiyama