癒しとウェルネスをテーマに、Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。 2月のテーマは「冬の寒い日を楽しむための音楽」。 まだまだ寒い日が続きそうですが、そんな冬の日を楽しむことができそうなおすすめの音楽を、Face Recordsの藍隆幸さんがご紹介します。
一番好きな季節はいつですか?
暑くもなく寒くもないちょうどいい気候の春や秋が好きだという人は多いと思いますが、冬が好きだという人も結構多いと感じます。 (近年の夏は暑すぎて、とても夏を楽しむという気分になれないのかも知れませんね。 )では、冬の楽しみとは何でしょうか?スキーやスノーボードなど冬のスポーツやアクティビティ、冬ならではの自然の美しさ、食べ物やファッションなど、楽しみはたくさんありますよね。
一方、一般的に冬は日照不足や寒冷によって、エネルギー不足が引き起こされ、気分が落ち込みがちになるとも言われています。 今回は冬を楽しむだけでなく、気分が落ち込んでも無理せずに過ごすことができそうな音楽を選んでみました。
気分が落ち込んだ時はどうしていますか?
元気が出るような音楽を聴くことも効果的な方法だと思いますが、落ち込んでいるときは気持ちに無理をしないことも大切です。 落ち込んだ自分に寄り添ってくれそうな音楽を聴いて、そんな時間を彷徨ってみたら、その先にはちょっと違う世界が見えてくるかもしれません。
ヨーロッパ圏のジャズロックはそんなシーンで聴くのにぴったりで、これまで気がつかなかった冬の魅力も発見させてくれそうです。
毎回、この記事で紹介する音楽はアナログレコードで聴いていただきたいのですが、今回は音楽を持ち出して、冬の景色を楽しみながら聴いてもらうのもアリだと思います。 とは言えデジタル化されていない音源もある点はご了承ください。
Twisted Track / Nucleus
余計な音を削った、ミニマルなジャズロックの音作りが特徴のバンド、ニュークリアス(Nucleus)。 この曲が入っている1stアルバム『Elastic Rock』は特に冬にはぴったりで、何年か前、このアルバムを聴きながらバスで冬の都会を巡ったことがあります。
「冬の都会」というと殺伐とした印象がありますが、ミニマルにまとまったジャズロックが都会の新たな魅力に気づかせてくれたように感じ、冬も悪くないと思えました。 ジャズロックと言ってもこのアルバムの曲のほとんどはジャズ寄りのアプローチをしていますが、その中でも8ビートのリズムで美しい旋律が特徴のこの曲をご紹介しました。
Love Song No. 1 / The Mike Westbrook Concert Band
奇をてらわずに淡々と送り出される穏やかなメロディーラインとグルーヴはニュークリアスにも通じるものがあり、1曲目と続けて聴いても何の違和感もありません。 フリージャズによくある難解さもなく、ビッグバンドジャズの要素も感じる独特の世界観は、まだヨーロッパ圏のジャズロックを聴いたことがない人には特にお勧めです。
モダンジャズも良いですが、冬に楽しむ音楽としてこんなバリエーションがあると音楽を聴く楽しみが広がると思います。 こんな名曲が音楽ストリーミングサービスで楽曲配信されていないのは驚きです。
オリジナルのUK盤レコードは高いですが、リイシューされた中古レコードやCDを見かけたらぜひ手に入れてみてください。
The Wizard / Jazz Q
このレコードは、今はもうない西新宿にあった中古レコード店で手に入れました。
そのお店の良さは、普通のレコード店のように箱の中を漁っているだけでは分かりません。 世界の果てにある音楽を集めていた店主に、例えば「オルガンを使ってるジャズロックで何かいいのある?」などと聞くと、奥からごそごそと見たことも聴いたことも無いレコードを出して「これなんかどう?」と2~3枚聴かせてくれる。 店主の知識と目利きの素晴らしさ、未知のレコードとの出会いを楽しませてくれる、とても魅力的なお店でした。
レコード店の魅力とはそこで働く音楽好きのスタッフの魅力にあると言っても決して言い過ぎではありません。 どこも厳しい経営で頑張っている中古レコード店ですが、相性の良いレコード店を見つけたら定期的に通って応援してあげてください。
さて、ジャズ・キュー(Jazz Q)は社会主義時代だった旧チェコスロバキアのジャズロックバンドです。 私は西新宿のレコード店主に勧められた時にはじめて存在を知りましたが、メンバーチェンジや休止を経ながら現在でも活動しているバンドです。
この曲が入ったアルバム『Symbiosis』は東欧らしい暗めの曲が多いですが、「The Wizard」はイントロの後、疾走感のあるジャズロックに圧倒されます。
アメリカのジャズやソウル系のアーティストとはまた違ったグルーヴが楽しめます。
The Influence / Ben
ヨーロッパ圏のジャズロックは発売当時、販売量が少なかったものが多く、オリジナル盤であれば高額になることがほとんどです。
その中でもレコードをリリースしているのがこの1枚だけという謎のアーティスト、ベン(Ben)は特にレアな存在として名前が挙がることが多いです。 ジャケットアートも謎ですが、なぜか惹かれるものがあります。
中古レコード市場でもこのオリジナル盤を探す人は多く、人気の高いアルバムです。
『The Influence』は7部で構成される組曲になっていて、作曲にはキース・ジャレット(Keith Jarrett)の名前もあります。 5分半ごろから展開されるエレピソロがいい雰囲気で、曲の中でも変化のある展開が楽しめます。
Wind Cloud / Kestrel
これも1枚しかリリースしていないアーティスト、ケストレル(Kestrel)。 レア度ではベンとも引けを取らないが、非常に内容が良いです。
UKらしく効果的なメロトロン使いが特徴で、ジャズロックというよりはブリティッシュ・ポップ。 アルバム2曲目であるこの「Wind Cloud」はオルガンのメロディーが美しく、部屋の中で窓の外の冬の景色を眺めながら聴くのも良いかもしれません。
音楽で感じる冬の温もり
冷たい風が身にしみる冬の季節。 そんな冷たい空気に包まれながらも、音楽があれば気持ちも暖かくなります。 今回お届けした楽曲は、寒さを感じながらも、音楽を通じて冬の美しさを探し出すのに最適です。
この寒い季節だからこそ、心地よいひとときには心に響く音楽が心強い味方となります。 寒さで気分が抑え込まれていても、未知の新たな音楽と出会って、冬の魅力を発見できる時間が楽しめることを願っています。
Face Records
”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る”という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。 1994年に創業し、現在は東京都内に3店舗、札幌、名古屋、京都に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。
Words: Takayuki Ai