NYを拠点に、世界各地のシーンを独自取材して発信するカルチャージャーナリズムのメディア『HEAPS Magazine(ヒープスマガジン)』が、Always Listening読者の皆さまへ音楽にまつわるユニークな情報をお届けします。

“デジタル鎮痛剤” をうたう音楽アプリが登場している。 おもしろいのは「生理痛をやわらげる」というアプローチが明確な点。 ストレス緩和、睡眠の質向上にアプローチする音楽アプリは雨後のタケノコのごとく登場していたが…なんともピンポイントではないか。

音楽を聴く理由が増えていく

音楽を聴く理由の一つに「セルフケア」が自然と含まれるようになり、いまや米国の14-25歳の70パーセントが「セルフケアのために音楽を聴く」と回答する調査もあるほど。 Spotifyをはじめ主要な音楽/動画配信サービスが、ヘルスケアブランドや企業と提携してウェルネスコンテンツの提供に熱心ななかでは、ごく自然な流れだろう。

*米国 BCBSが2023年6月に実施した14-25歳の1,368人を対象としたオンライン調査。

音楽を起点とする一般向けのヘルスケアへのアプローチにおいては、ストレス緩和、睡眠の質の改善といった、どちらかといえばメンタル面へのアプローチが目立つ印象だった。 一方、医療機関や専門機関では、長きにわたってアルツハイマー病やパーキンソン病などの難病への音楽療法によるアプローチもおこなわれており、そこには一定の痛みの緩和なども含まれていたが。

今回、科学的根拠をもつ(とする*)デジタル鎮痛剤を、一般向けかつピンポイントの痛みにアプローチしているのが新しい。 生理がある人の苦痛を緩和するためにつくられたのが、バルセロナ発のアプリ「Moonai(ムーナイ)」だ。 神経科学者と婦人科医、音響心理学者、音楽プロデューサーからなるチームが開発している。

同アプリが提供するデジタル鎮痛剤とは、生理周期に聴くオリジナルの「アンビエントドローン・サウンドスケープ」のことで、アプリ内でいくつかの質問への回答に基づきそれをパーソナライズ化。 このサウンドスケープでPMSや生理痛を和らげ、小康状態**を保つという。

*神経科学に基づき、認知行動療法のアプローチとアンビエントドローン・サウンドスケープを組み合わせたもので、脳波に影響を与える特定の周波数、バイノーラル・ビートなどの概念に基づくものを提供しているとする。 詳しく知りたくコンタクトを取ったが期日までに取材は実現せず。 続報があれば追記したい。

**強い痛みや症状が収まり、一旦安定している状態のこと。

心の痛みだけでなく。 身体の痛みに効く?

果たして生理痛に音楽は効くのか?
ムーナイのサイト上の説明には「音の刺激で脳波に影響をあたえ、気分や痛みの知覚に働きかける」とある。 「生理痛とは炎症を含めた身体的な痛みを伴うが、それらは思考、感情、社会的なサポート(人や物など周囲から受けられる感情的なサポート)などの知覚が影響する」とし、痛みを増幅する要因である知覚部分にサウンドスケープで働きかけることで、痛みを最小限におさえる、ということだろう。 痛みとひとくちにいっても様々あるなかで、ムーナイがサイト上で引用している研究内容を参照すると「陣痛の緩和や産後のために用いられる鎮痛剤の必要量と音楽の効果」について言及したものがある。 このあたりをまだまだ検証が少ない生理痛へのアプローチの根拠の一つにしているようだ。

気になるのはその信憑性だが、プロトタイプ時点で131人の女性にテストをおこない、80パーセントの人が痛みの軽減を感じたとし、現在のユーザーは9,500人を公称。 月経困難症における音楽の専門家や、神経生理学のアドバイザー、フェムテックのアドバイザー、他にもAI音楽専門、サウンドエンジニアなど、確からしいアドバイザーも揃っている。 いくつかのテックコンペティションでもファイナリストにも選ばれている(が、いまいちメディア露出がないのは気になるところ…)。

もっぱら “心の休まり” に効くものが多かったなかで、いま、痛みにアプローチする一般向けの音アプリが登場しているのはおもしろい。 2023年には、慢性疼痛*の緩和にも音楽が効果的であるとの可能性を示す事例がでていたり、特定の周波数を効くことで偏頭痛が緩和するという研究結果も発表された。

*ガン、関節炎、糖尿病、損傷(ヘルニアなど)をもつ人が感じる持続性のある痛み

偏頭痛に関しては、同研究結果がでる以前から痛みの緩和のためのトラッキングアプリや音楽アプリが登場していたが、こういった最新の研究結果を踏まえて、より本格的な “痛みの緩和” に特化したアプリも登場するかもしれない。 心だけでなく、具体的な身体の痛みにアプローチする音アプリも増える予感…。

Words: HEAPS

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