オーディオテクニカのレコードプレーヤーは、いろいろな材質で作られています。 軽くて強度が高いアルミ合金、陶磁器に近い性質を持つボロン、固さや鳴きやすさなどを自在に調整できるエンジニアリング・プラスチック、そして優美なデザインを実現させるガラス。 今回はこれらの素材について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。
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さまざまなパーツで使われるアルミ合金
レコードプレーヤー周りで使われる金属というと、真っ先に思い浮かべるのは、やっぱりプラッターに使われているアルミじゃないでしょうか。
一口にアルミといいますが、純粋なアルミニウムはとても柔らかくて加工が難しく、また錆びやすいため、工業製品の素材に使われるのは稀で、大半は銅や亜鉛、マグネシウムなどとの合金となっています。 プラッターのように手が触れやすい部分のアルミ合金は、錆びにくいようにマグネシウムを含んだ合金が多いようですね。
アルミ合金はまた、トーンアームのパイプ部分やヘッドシェルにもよく用いられます。 軽くて強度が高いため、機敏に動かなければならないアーム周辺には重宝する素材なのでしょう。
オーディオテクニカのユニバーサル型ヘッドシェルも、その大半がアルミ合金ですが、例外もあります。 MG10はマグネシウム製で、同じくらいの形状と大きさのアルミ製のAT-LT13aが12.8gなのに対し、10.0gと軽量です。
また、アルミ合金とマグネシウム合金では音質傾向も結構違い、割合と明るく饒舌な感じのAT-LT13aに対し、静かでどこか不言実行的な風格を有するMG10という感じです。 マグネシウムは比重が小さいことに加え、鳴きが非常に少ないのが大きな特徴ですから、それらの条件が音へ影響しているのだと考えられます。
アルミ合金は、カートリッジのボディやカンチレバーなどにもよく使われています。 VMシリーズのカートリッジは比較的廉価な製品が樹脂製ボディ、上級製品はアルミ合金のボディを有していますが、同じ交換針をその両者に取り付け、ボディ材質のみを聴き比べると、これもまたビックリするくらい違いがあって驚かされます。 VMシリーズは最上級から最廉価まで、交換針を相互に流通させられるとても面白いカートリッジですが、材質の違うボディを複数持つのも面白いですよ。
カートリッジの重要なパーツ、カンチレバーの素材
カンチレバーに採用される金属としては、かつてはベリリウムが高級カートリッジの定番だったのですが、残念ながら人体に毒性があるということで、現在はほとんど用いられなくなってしまいました。
その代わりに、現代の高級カートリッジへ採用されるカンチレバーの材質はボロンが多くなりました。 これは金属ではなく、どちらかというと陶磁器に近い物性を持つものですが、ベリリウムに次ぐくらい音速の速い素材で、それこそボロンを物性で超えるものといったらダイヤモンドくらいになってしまいます。 ダイヤモンドもカンチレバーに使われていますが、極めて稀少な素材で加工も難しいものですから、とてつもない価格になってしまうのはもう致し方ないですね。
ターンテーブルシート不要のPOMプラッター
お次は、樹脂系の素材へ話を進めましょうか。 20世紀頃までは、精度の高い成型品を作るなら金属が圧倒的な主流でした。 ところが昨今は、固さや加工の難易度、鳴きやすさなどを自在に調整でき、高精度で物性も採用意図に合わせ込むことができる樹脂、いわゆるエンジニアリング・プラスチックがどんどん台頭してきています。
一例を挙げると、一眼レフのカメラは昔の製品よりも現行製品の方が軽く、しかも精度が上がっています。 これはまさに軽量・高剛性で高精度を見込むことのできるエンジニアリング・プラスチックを筐体に用いたためです。
オーディオテクニカのプレーヤーAT-LP7は「ポリオキシメチレン(POM)」と呼ばれるエンジニアリング・プラスチックを、プラッターに採用しています。 こちらは一転比重が大きく鳴きにくく、耐摩耗性に優れた素材です。 高い精度を見込むことができる、というのはカメラへ使われている素材と同様ですね。
POMを採用したおかげで、AT-LP7はプラッターの鳴きがなく、ゴムやフェルト製のいわゆるターンテーブルシートを用いる必要がありません。 また、レコードは中心部のレーベル面が少し出っ張っていますが、その分を落とし込んで盤全体の密着性を高めるような設計がなされていますから、レコードをそのまま、あるいは適切な重量のスタビライザーを載せて、気軽に楽しむことができるのがうれしいですね。
耽美なガラス製アイテム
ガラスという素材はアモルファス、即ち特定の結晶構造を持たない物性で、単体ではピーンと澄んだ音で鳴きますが、2枚重ねたりゴムやフェルトを載せたりすることで、比較的簡単に鳴きを抑えることが可能です。
それで、アナログ全盛期にはいくつかのメーカーがガラス製のプラッターを採用していました。 加工はそれほど簡単ではありませんが、現代のガラスは平面性に優れており、レコードを載せるに適した精度だったという風にもいえるのでしょうね。
ガラス製プラッターを持ったプレーヤーは、英国製にまだ幾つかの製品が残っていて、優美なデザインとシックなサウンドで、根強い人気を保っています。
レコード関連では、アクセサリーにガラス製のものがいくつかあります。 ガラスのターンテーブルシートはアルミのプラッターへ載せると一気に鳴きが落ち着き、ピントがぴしりと合って曖昧さがなく、どこか厳しさすら感じさせる音が楽しめます。 一方、ガラス製のスタビライザーも市販されていますが、こちらは落ち着いた美的な風情が魅力です。
ちなみにターンテーブルシートはかつて、さながら素材の博覧会という様相を呈していました。 ゴム、皮革、樹脂、フェルト、紙、アルミ、真鍮、砲金、ガラス、セラミック、水晶、カーボンなどなど。 まだまだあったと記憶します。 その中でも、樹脂とセラミックを除けば、まだ現行の商品があると思います。
それだけアナログは素材によって音が変わる、自分好みの音へ向けたチューニングの余地が大きい、ということでもあるのでしょう。 皆さんもぜひ、大好きな音楽をより自分の近くへ引き寄せるために、いろいろな素材のアクセサリーを試してみてはいかがでしょうか。
Words:Akira Sumiyama