広告は時代を表現していると思う。デジタル化がどんどん進む世の中の影響か、近ごろの広告は「いかに手っ取り早く要点を伝えるか」あるいは「いかに短時間でインパクトを残すか」に焦点をあててデザインされたものが多い。では、デジタル化が進む以前の広告はどうだったか?
資生堂や渋谷PARCOなど、今年は広告のアーカイブ展示がいくつか開催された。(ちなみにオーディオテクニカも、昨年のAnalog Marketで創業60周年の歴史を広告とともに振り返る展示を行っている。)創業から半世紀、あるいはそれ以上の歴史の中でファッションやクリエイティブ面で多くの人たちに影響を与えてきたグラフィックを一挙に見ることができる貴重な機会だった。
こうしてアーカイブとして広告を振り返ると写真やグラフィック、デザインの表現手法、あるいはキャッチコピーに目がいきがちだが、今回は文章に注目しながらオーディオテクニカの過去の広告をひとつご紹介したい。(ここまで読み進めていただいたところで恐縮だが、その広告画像をご覧いただくには一度このページのトップに戻ってほしい。)
1982年3月に発売されたステレオホン*『ATH-0.6(point 6)』は、カセットプレーヤーの登場にともない開発された「ポイントシリーズ」のひとつ。文章の冒頭は製品とは一見すると関係なさそうな五感(しかも聴覚以外)の話からはじまる。そこからさらに読み進めると本題のステレオホンの話がはじまり、そしてATH-0.6の軽やかな装着感やそのギミックを解説している。
* 今ではヘッドホンと呼ばれる製品だが、当時の製品名はステレオホンだった。
すぐに製品の話に入るのではなく、五感を相互作用させて感性を高めることの大切さを説き、音にこだわる人のために作られたステレオホンを勧めるこの構成。そのメッセージの意図や意味の汲み取りを読み手に委ねる部分が多いこの広告は、現代ではなかなか見られないものではないだろうか。
いくら真似ても、その時にしか出せない、再現できない要素がある。また、読む側の感受性も時代とともに変化・多様化しているはず。現代の受け手として、あなたはこの広告をどう思うだろう?
”楽しいふれあいならそれだけでもう音楽だ。軽くすんなり心にとけてくる。感性のジャスト・ポイントをみつけよう。”
五感
見る、聴く、触れる、そして臭と味。目と耳と皮膚と、身と舌とで感じるつまりは五感。でも、実際に五つの感覚を簡単に分けてしまうのはむづかしいようだ。
鼻をつまんだら味はよくわからないし、厚い靴の底を通しても地面の固さが足に伝わってくるのだから……。
いちばんはっきりしていそうな視覚でさえ、この色はいいとかわるいとかいうときには、さまざまな連想によって判断が変わるのではないだろうか。五つの感覚はいつもクロスオーバーしているらしい。
感応
たとえばいい道具をみつけたとき、ビタッとくる感じはかなり瞬間的なインパクトのように思われるけれど、それはきっとあらかじめ期待があるからだ。
猫に小判、みたいに何の期待もなければどんなものだって無意味。訓練され、磨かれた感覚だけが瞬時に相手と感応できるのだ。
パッとみていいと思う。
とても単純そうな視覚の印象には、他の感覚が複雑にからみあった微妙な判断が働きかけている。
低音感
いま、オートバイなんかでは、排気量が同じなら少しでも大型に見えることが若者の選択基準になっているようだ。
ところが、ステレオホンはまるで逆。少しでも小型なことが条件だ。どちらにもそれなりのわけがある。でもオートバイなら走行性能や燃費、ステレオホンなら低音のクォリティや許容入力の点でサイズと重さに限度がある。やたらに軽くて小さいから技術の進んだいいステレオホンだとはいえないわけなのだ。
小型・軽量でしかも低音の質がいいステレオホンを選ぶ。それにはやっぱりいい音を沢山聴いて感応力を高めることが大切だと思う。
スイング・アジャスト機構
ポイント・シリーズは、あくまでも音質を大切にする人のために作られたマニア・グレードのミニ・サイズ・ステレオホン。
なかでもポイント6と4は、大好評のスイング・アジャスト機構を継承しながら自重が10g近くも軽くなっている(当社比)。本体が上下方向にクルリと回転して、左右別々にジャストフィット・ポイントをさがせるスイング、アジャスト機構。ユニークなメカとのふれあいを楽しもう。
軽やかな装着感のすばらしさを比べてみよう。そして、いい音を求める耳には、比べるまでもなく低音のクォリティの違いがすぐに感じられることだろう。
わかる人にはわかる、これから修業の人にとっても持っているだけでうれしい、それがポイント。
あくまでも音質重視、小型・軽量で音はビッグなポイント6、ポイント4。
小型・軽量の魅力を前提に、より本質的なよさを追求したATHポイント・シリーズ。ポイント6と4はその最新モデルです。性能のキメ手となるドライバ・ユニットを直径31mmにサイズ・アップして、しかも自重をわずか46g(入力コードを除く)に低減。本体が上下に回転するスイング・アジャスト機構とあわせて、すばらしく軽やかな装着感とスケールの大きい迫力ゆたかな音質を、さらにずっと向上させました。一点支持構造の本体は、耳の大きさや形に応じてどの方向へも15度まで自在に傾斜。ぴったり柔かく耳へフィットするので、低音をそこなうすき間があきません。いい音は、軽やかなジャスト・ポイント・リスニング。
* こちらの広告資料は掲載当時のものであり、ご紹介をしている製品のお取り扱いは終了しております。価格や住所・電話番号も当時のまま観賞していただきたいためそのまま載せております。現在は変更している部分もありますので予めご了承願います。
Edit: May Mochizuki