音楽業界とウェルネスについてのニュースが止まらない。
近年この組み合わせには多様なトピックのアップデートがあるが、大まかには二つにわけられる。 一つはミュージシャンのメンタルヘルス向上に関するもの。 もう一つは、ウェルネスミュージックそのものの台頭について。 今回はウェルネス×レーベルの動きに注目する。
ミュージシャンが抱えるウェルネスの問題に特に注視がいくようになったのは、2016年以降だ。 それ以前からミュージシャンという職業がいかにメンタルヘルスの問題を抱えやすい状況にあるかを示す統計はいくつもでていたが、ストリーミングサービスの台頭による収益減少を含む状況と見通しの変化がさらにミュージシャンたちを不安を抱えやすい状況に追いやったと指摘されている(さらにこの年以降、Adele(アデル)がステージ恐怖症を告白、Justin Bieber(ジャスティン・ビーバー)がうつ病を告白、Kanye West(カニエ・ウェスト)が躁うつと診断されたことを告白するなどが相次いだ)。 それらを受け、所属ミュージシャンらのメンタルヘルス維持にかかる費用を負担するレーベルや、ミュージシャン専用電話窓口(24時間)の開通などが相次ぎ、その後も各レーベルらが何かしらの対策を取ってきた。
ウェルネスを経営理念に。 “セラピー音楽特化”のレーベルも登場
いま、経営理念そのものにウェルネスを採用するレーベルが登場した。 カリフォルニア拠点の音楽レーベル「Guin Records(グイン・レコード、2018年設立)」は7月に「ウェルネスとウェルビーイングに重点をおいた経営理念と価値観を採用する」と発表。 アーティストらにとっては「クリエイティブなプロセスそのものが精神的な負担になる」ことを認識し、心身の健康を保ちながら活動できることを最重要視するという。 内容としてはウェルネスにあてる補助金を提供する、セルフケアやウェルネス活動に投資できるようなシステムを採用する、心身の健康を保つために必要な休暇を支援する制度の導入などがあげられている。
さて、話をウェルネスミュージックの台頭についてに移す。 特にコロナ禍以降、ウェルネス/ウェルビーイングへの意識の高まりを受け「音楽市場はウェルネスミュージックに軸足を移している」といわれるほど、いまやウェルネスが業界の中心にあるといっていい。
例えば、Spotifyのような大手ストリーミングサービスには「チル」「ディープフォーカス」などをはじめとした精神状態を起点としたタイプのプレイリストが増えているし、ミュージシャンらはウェルネスについて歌うだけでなくツアーで音浴やマントラ詠唱なども提供する事例もあちこちでみられる、といった具合。 さらにいま、生成AIの普及によって、音楽関連のスタートアップから大手企業までが生成AIを活用しウェルネス関連の音サービスの開発・提供を試みているとアナウンスしている。
その流れで今夏登場したのが「ウェルネスとセラピーのための音楽に特化するレコードレーベル」の登場だ。 DJ、音楽プロデューサーでサウンドセラピストのPaul Nolan(ポール・ノーラン)によって設立された「Microdose Music(マイクロドーズ・ミュージック)」は、リラクゼーションのために設計された音楽を専門的に取り扱うという。 リスナーのストレス軽減やメンタルヘルスの向上を目的としている。
ミュージシャンのウェルネスを改善していくことは、ミュージシャン自身のウェルネスへの意識と興味を促進することに繋がり、それは彼らが提供する楽曲やツアーなどの音楽体験も自ずと繋がっているのだろう。 ミュージシャンとウェルネスの関係が進むことが、ウェルネスミュージックの台頭にさらに拍車をかけていく。 そのうちウェルネスミュージックそのものが鳴り止まなくなる、かも。
Words:HEAPS