今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。
「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。
岡田拓郎が考える「アナログ・レコードの魅力」
アナログ盤はやっぱりサイズが好きです。 大きすぎず、小さすぎない。 トートバッグで持ち運べるけれど、手のひらには収まりきらない大きさに、しっかり椅子に腰掛けて音楽を聴こうという気持ちにさせられます。 片面15〜20分という時間的なサイズ感も好きですね。
Marc Benno「Minnows」
レコードを買い始めた18歳くらいの頃に買った一枚。 スワンプ名盤というレコード屋のタグコメントに興味を持ち、試聴の際に開いた内ジャケ記載のギタリストのクレジットがJesse Ed Davis(ジェシ・エド・デイヴィス)、Clarence White(クラレンス・ホワイト)、Jerry Mcgee(ジェリー・マギー)といったLAスワンプ、カントリー・ロック人脈の面々の中に、1人畑違いにも思えたBobby Womack(ボビー・ウーマック)の名が。 彼が参加した楽曲はスワンプの土臭さとニューソウル的な洗練が入り混じるメロウ・スワンプ名曲。
その後、森は生きているというバンドを組んだ際に鍵盤の谷口メンバーと ”歳の近いミュージシャンでこの盤が話題にあがるのは初めて” という話をしたような。 ギタリスト以外にも、Nick DeCaro(ニック・デカロ)やJim Keltner(ジム・ケルトナー)、Rita Coolidge(リタ・クーリッジ)らも参加。 理想のアンサンブルだった。
Archimedes Badkar「Tre」
10代から20代の初めまで、私のアイドルだった(そしていまでも)Jim O’Rourke(ジム・オルーク)さんがレコメンドするのをとにかく片っ端から聴いていました。 彼は、常に新しい世代のレコード・オタク・ミュージシャンたちのために、たくさんの音楽を紹介し、音楽にどのように接し、どのように捉え、それらをどう考えるかの沢山のヒントを教えてくれました。
このArchimedes Badkar(アルキメデス・バドカー)の3枚目も、CDリイシューは彼のコメントがついているということで手に入れました。 世界各国のプリミティヴな音楽が下敷きとなっていますが、当時のミニマル、フリー・ジャズ、ロックの先鋭な感覚が混ざりあいます。 クレジットでいえば私の敬愛するパーカショニスト、Bengt Berger(ベングト・バーガー)とPer Tjernberg(ペール・チェーンベリ)が参加しています。
Michael Nesmith & The First National Band「Loose Salute」
今年、ロサンゼルスに遊びに行った際に、 ”LAクラシックだから絶対にゲットすべし!” と言われ、1週間かけて散々探したが全く見つからず。 忘れた頃に、近所の3年くらい在庫の動かない街のレコード店で発見。 こんなところにいたのね。
The Monkees(モンキーズ)のメンバーとして知られてますが、彼のソロ作品は本当に素晴らしい。 Gram Parsons(グラム・パーソンズ)やGene Clark(ジーン・クラーク)に並ぶソングライターだと思います。 そして相棒として連れ添うことになるRed Rhodes(レッド・ローズ)のペダルスティールの演奏も見逃せません。 数々の作品でプレイしてきた名手ですが、Nesmithのバンドでの演奏は気持ちの入り方が全然違うように感じます。 ちなみにNesmithプロデュース、Red Rhodes参加のBert Jansch(バート・ヤンシュ)「L.A. Turnaround」も素晴らしい。 同じくNesmithプロデュースによるRed Rhodesのソロ・アルバムも音響派カントリーとも言えるユニークな仕上がり。 この2枚は昔からフェイヴァリットのレコードだったけれど、こうした繋がりがあるのを知ったのは最近でした。
Chris Massey Group「Atmosphere」
ギタリスト、Bill Frisell(ビル・フリゼール)のクレジット記載のあるものは見つければ出来るだけ買うようにしています。 キャリア初期のヴォリュームペダルを使った演奏が特に好きで80年前後の参加作品は好きなムードのプレイが多いです。
ローカルなドラマーのリーダー盤のようです。 A1はオルガン・ドローンの上をJan Garbarek(ヤン・ガルバレク)のようなサックスとビルのギターが浮遊するECMジャズのような仕上がり。 A2はBillによる作曲で演奏も彼のギターの多重録音のみのアンビエント・ジャズ的なトラック。 十数年後にリリースされる「Ghost Town」に収録されていそうなムード。 B4ラストはビートレスの電子音響ジャズ。 プライヴェート・プレスながら全篇で聴き応えのある1枚です。
The Millennium「Begin」
“クレジット買い” をした訳ではありませんが、 ”クレジット” の話で言えばやはり真っ先に思い浮かぶアルバム。 Curt Boettcher(カート・ベッチャー)、Sandy Salisbury(サンディ・サルスベリー)、Joey Stec(ジョーイ・ステック)、Gary Usher(ゲイリー・アッシャー)、Keith Olsen(キース・オルセン)…などなど、気になる名前が沢山載っていた。 この1枚のレコードから、沢山の音楽にアクセスすることが出来ました。
岡田拓郎
1991年生まれ、東京都福生市育ち。 音楽家。 2012年にフォーク・ロック・バンド「森は生きている」を結成し2014年に『グッド・ナイト』をリリース。 2015年のバンド解散後は、シンガー・ソングライターとしての活動、環境音楽の制作、即興演奏の他、優河、柴田聡子、never young beach、大貫妙子、James Blackshawといった、ミュージシャンのプロデュースやエンジニア、演奏者として数多くの作品やライブに参加している。 ギター、ペダルスティール、シンセなどの楽器を演奏する。 2022年8月にリリースしたソロ・アルバム『Betsu No Jikan』では、ジャズやエクスペリメンタル、電子音響などにも通じる新たな表現を試みている。
Edit:原 雅明 / Masaaki Hara