グローバルチャートを席巻し続けるK-POPグループたちの存在をきっかけに、改めて韓国の音楽シーンが気になり始めているという方も少なくないのではないだろうか? そこでぜひ知っておきたいのは、同国には──ことその首都ソウルには──K-POPのみならず、インディ・ポップやポスト・ロック、ソウル、エレクトロニックなど多種多彩な音楽が鳴り響いていて、豊かなシーンを育むためのコミュニティや個性的なベニューがたくさん存在しているということ。

今回の記事では、そんな「外」からはなかなか見えてこない韓国・ソウルのローカルな音楽事情をご紹介したい。 ナビゲーターを務めるのは、2016年からソウルと東京でDJイベントを主催し、日韓両国のアーティストの訪韓・来日公演のコーディネートを行ってきた内畑美里。 5月にコロナ禍を経て3年半ぶりにソウルを訪れた内畑に、新たな発見にあふれた音楽旅の記録と、そこで出会った4作品のレビューを寄せてもらった。

注目ベニュー:インディーズ・バンドの聖地ホンデのカフェ「MiDoPa」、実験音楽やアンビエント作品を扱うマンウォンのショップ「Rope editions」へ

2023年5月26日。 3年半振りにソウルへ訪問。
暇さえあればライブハウスやクラブへ足を運び、勢いで1年ほど住んだこともあったソウルに、まさかこんなにも行けない日々が続くとは! 妙に緊張しながら空港へ降り立ち、チェーン店のアイスティーで感覚を呼び覚まし、ホテルがあるシンチョンへ移動。 久しぶりのソウルに思わず浮かれて作った「行きたいスポットリスト」を確認し、まずは近場からと、ホテルの隣町ホンデを散策。

インディーズ・バンドの聖地と言われているホンデ。 駅からしばらく歩くと突如姿を現す「MiDoPa」は、オルタナティブ・スペース〈新都市〉の共同オーナー/フォトグラファーのユンホくんが2021年に立ち上げたカフェです。

「MiDoPa」は、オルタナティブ・スペース〈新都市〉の共同オーナー/フォトグラファーのユンホくんが2021年に立ち上げたカフェ

グレイッシュエメラルドが印象的なレトロ空間にはDJブースが併設されていて、新都市とゆかりあるアーティストが、時折イベントや展示、ミニライブを企画しています。 音楽、喫茶、ビンテージ…様々な文化を愛するお店の感性に交感する人々が集い、新たなスポットとして愛されています。

グレイッシュエメラルドが印象的なレトロ空間にはDJブースが併設されていて、新都市とゆかりあるアーティストが、時折イベントや展示、ミニライブを企画

「MiDoPa」のカフェオレでリフレッシュした後、バスで15分ほど揺られて向かった先は、マンウォンにある「Rope editions」。 国内外の現代アート書籍や、ソウルでは珍しい実験音楽やアンビエントのレコード/カセットテープ/CDにスポットを当てたセレクトショップです。 ここでは欲しかった音源『kkum 35』を購入。

マンウォンにある「Rope editions」。 国内外の現代アート書籍や、ソウルでは珍しい実験音楽やアンビエントのレコード/カセットテープ/CDにスポットを当てたセレクトショップ

ソウルのクラブ・シーンの変化:ミニマルをベースとした小箱の急増

クラブが密集するイテウォンエリアでは、2019年頃よりミニマル・サウンドをベースとする小箱が急増。 クラブ=皆んなでガンガン歌って飲んで、とにかく盛り上がる!というスタイルだったソウルのクラブ・シーンに、少しずつストイックに音楽を楽しむ空気が流れ込んでいる気がしています。 (“ガンガン飲む”は相変わらず)局地的ではありますが、近年実験音楽やエクスペリメンタル、アンビエントの企画もよく目にするようになっていて、興味深い作品のリリースもかなり増えました。 テクノ〜ハウスを筆頭にクラブの音は細分化が始まっていて、何度目かの過渡期を迎えているなと感じています。

DJ mospiranがオーナーを務める新オープンのミュージック・バー「villa mariana」

DJ mospiranがオーナーを務める新オープンのミュージック・バー「villa mariana」

夜は、同じマンウォンに新しくオープンしたミュージック・バー「villa mariana」へ。 友人のDJ mospiran(DJモスピラン)がオーナーを務めています。 彼の愛するワールド・ミュージックの空気感そのままに、チルで心地よい空間。 レコード棚の下にはターンテーブルがあり、週末はDJを招いてレゲエやディスコ、アジアの歌謡モノなどを中心としたラウンジ・ミュージックをお酒と共に楽しめます。 帰り際、mospiranが「最近、Balming Thiger(バーミング・タイガー)の人たちが来てくれたんだ」って嬉しそうにサイン帳を見せてくれました。

トロピカル・サイケデリック・バンドのCHSの圧巻のパフォーマンス

トロピカル・サイケデリック・バンドのCHSの圧巻のパフォーマンス

5月27日。
トロピカル・サイケデリック・バンドのCHSが、『HOME/HIGHWAY』の7インチ発売ライブを開催すると聞き、アパレルショップ「DEUS EX MACHINA」へ。

店内ではコラボ商品のポップアップ、屋外ではCHSのライブが。 MCのフレンドリーさにオーディエンスをグイグイ引っ張るグルーヴ、演奏も本人たちのキャラクターも魅力的で中毒性高く、入場規制寸前の会場は雨にも関わらず大盛り上がり! オーディエンスを煽りながらどんどんヒートアップしていくパフォーマンスは圧巻の一言。 いつかフジロックで観たいなと思った一夜でした。

円盤好子とさぶろう先生のプロフィール

ノイズやポンチャック、UKベース、K-POPなどが入り乱れる超ローカルなレイヴ・パーティー

5月28日。

ノイズやポンチャック、UKベース、K-POPなどが入り乱れる超ローカルなレイヴ・パーティー

昔から問屋街として栄えたウルチロへ。 現在は再開発などの問題を抱えていますが、2017年前後よりカフェやバー、ギャラリーが雑居ビルに点在するようになり、ヒップなエリアとしてすっかり定着しました。 が、ヒップさとは1ミリも掠らない方向へズンズンと進み、問屋街の一角でポツンと営む居酒屋へ。

問屋街の一角でポツンと営む居酒屋へ

店内にはDJブースとスピーカーが置かれ、大爆音で音楽が。 クラブ〈ACS〉が企画する超ローカルなレイヴ・パーティーは、そのロケーションのインパクトもさることながら、お客さんの“막춤사수(爆踊り死守)”な姿勢に、強烈なストレートパンチを顔面に喰らったような感覚になりました。 DJのスタイルも様々で、ノイズ、ガバ、ポンチャック、UKベース、歌謡曲、K-POPなど。 ノンストップ・ハイテンションな光景はカオスの一言に尽きます。 ウルチロという場所で、彼らにしか生み出せないユニークなバイブスに完全K.Oされました。

最終日には老舗レコード・ショップで買い物~3年半ぶりのソウル訪問を終えて

最終日には老舗レコード・ショップで買い物~3年半ぶりのソウル訪問を終えて

5月29日。
チェックアウトを済ませ、レコード・ショップ『Gimbab records』へ。 国内外のインディー ポップ、ロック、ジャズ、ソウルなどのレコードを中心に、CDやカセット・テープも取り扱っている老舗のレコード・ショップです。

移転をして綺麗&広くなった店内には、オープンしてすぐの時間帯にも関わらず、レコードを求める人で賑わっていました。 こちらでは欲しかったCD『SCA1(Side A)』の他、ジャケ買い品など数点を購入。 フィジカルで作品を手にするって良いですよね。

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訪問出来なかった3年半、SNSを通してチェックしていたソウルの音楽シーンは、メイン・ストリームのK-POPをはじめ、相変わらずパワフルで新鮮な面白さに満ち満ちていて、その猛進するエネルギーに感嘆の思いでしたが、現地の様々なベニューでその変わらない熱量に久しぶりに触れ、東京で燻っていた何年間分の気持ちが一気に晴れるようでした。

メイン・ストリームは流行とともにスピード感持って変化をし続けている韓国ですが、インディーズ〜アンダーグラウンド・シーンは熱を持ちつつもユルめのマインド。 DIY精神のもと、数人でスタジオ経営したり、クラブ・マネジメントしたり。 コロナで厳しい状況の中、小さなクラブや音楽愛好家が集うカフェやバーを多くオープンさせ、試行錯誤しながらシーンを築いている様を間近で見て、沢山のアイデアと刺激をもらった旅となりました。

いつも沢山のエナジーを与えてくれる、私にとって、とても特別な都市・ソウル。
すでに次回の渡韓予定を組み立てている真っ最中。 次はどんな音楽と出会うのか、今から楽しみです。

内畑美里が今回の滞在で入手した4作品

CHS『HOME/HIGHWAY』(2023年)

CHS『HOME/HIGHWAY』(2023年)

韓国のポスト・ロックを代表するバンドApollo18(アポロ18)のチェ・ヒョンソクを中心に、歌手やプロデューサーとしても活躍しているパク・ムンチらが集まり結成された、自らを「トロピカル・サイケデリック・グルーヴ」と謳う、6人組バンドです。

ファッションブランド〈DEUS EX MACHINA〉とのスペシャルコラボとしてリリースされたこちらの7インチ、スウィート&ロマンティックでとろけるような『HOME』と、夕暮れ時の叙情的サウンドをグルーヴィーに仕上げた『HIGHWAY』が収録されています。 ライブでも多幸感であふれていた二曲が収録された、CHSが贈る極上コリアン・バレアリック・サウンド!

Various artists『SCA1(Side A)』(2021年)

Various artists『SCA1(Side A)』(2021年)

韓国の音楽レーベル〈SoundSupply_Service(サウンドサプライ_サービス)〉による、レーベル初のコンピレーション・アルバムです。
Balming TigerのLeesuho(イ・スホ)、プロデューサーKim Doeon(キム・ドオン)などレーベルからリリース経歴のあるアーティストの他、ローファイ・ヒップホップのトラックメイカーBeautiful Disco(ビューティフル・ディスコ)、SXSWへの出演経験を持つY2K92など、ソウルで活動するアーティストを集めて作られました。 アンビエント、IDM、ディスコ、ハウスなど幅広い楽曲たちは、ソウルのアンダーグラウンド・シーンの現行を知るには必聴です。 第二弾『Side B』もリリースされているので、是非どちらもチェックしてみてください。

꿈 kkum『꿈 kkum 35』(2022年)

꿈 kkum『꿈 kkum 35』(2022年)

ソウルのテクノ・シーンを長く支えているクラブ「vurt」が、 “Ambient Podcast” と題してリリースしているミックスシリーズ。 実験音楽やエクスペリメンタルなどのアーティストの作品を取り扱っています。 日本からは音楽家mu h(ムー)がリリース参加するなど、東京のクラブ「神楽音」をはじめ、「vurt」は日本との交流も盛んなので、ソウルのテクノ・シーンが気になる方は是非チェックして欲しいです。 こちらのカセット・テープは、韓国のレーベル〈SCOPÁVIK(スコバビック)〉の運営者で音楽家のScøpe(スコープ)によるライブ音源。 暗闇を彷徨うような不穏さ、ひんやりとした空気とソリッドな質感を感じるアンビエントセット。 痺れます。

TRPP『TRPP』(2022年)

TRPP『TRPP』(2022年)

韓国の音楽レーベル〈Magic Strawberry Sound(マジック・ストロベリー・サウンド)〉に所属するSSWのユン・ジヨン、ロック・バンドIlloYlo(イルロワイロ)のカン・ウォヌ、第9回韓国大衆音楽賞にて『今年の新人賞受賞』を受賞したバンドBye Bye Badman(バイ・バイ・バッドマン)のGila(ギラ)による、オルタナティブ・ロックバンドTRPP。 シューゲイザー、ブリット・ポップなど、80−90年代のバンド・サウンドを感じる楽曲は、My Bloody Valentine(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)やBlur(ブラー)からの影響が窺えます。 無邪気で瑞々しいインディー・ロックが詰まったファースト・アルバムは、一曲目「Pause」のフレッシュさが堪らなく良いです。 ジャケに合わせたパープルの盤もキュート。

内畑美里

韓国音楽を軸とした企画制作、執筆等。 2016年から東京・ソウルの両都市でDJイベント「めちゃくちゃナイト」を主催。 韓国アーティストの来日公演、日本アーティストの訪韓公演のコーディネートも務める。

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Text & Photography Misato Uchihata
Edit Takahiro Fujikawa

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