いわゆる ”オーディオマニア” といえば、お金や時間をかけて整えたオーディオ環境でじっくりと音を楽しむ人たちの姿が想像されやすいでしょう。 高尚な趣味に思われがちな「オーディオ」ですが、実際はささいなことからでも楽しめるのです。 その秘訣をオーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

「音楽を楽しんでいると、オーディオという用語が時折出てきますよね。 でも、それって一体何を示しているのでしょうか。 音楽を聴くための道具? それともおじいちゃんたちが一所懸命やっている大きなアンプやスピーカーを使った音楽再生のこと?」

もっといい音で再生したい!

「audio(オーディオ)」という英単語を直訳すると「耳に入ってくる音」というニュアンスの言葉です。 これが転じて「生の音ではないがとても生に近い音」という意味合いが生じ、そこから高忠実度の再生(これを昔はハイファイといいました)ができる音楽再生装置のことを『オーディオ』と呼ぶようになりました。

オーディオという言葉がいつ頃生まれたか、というか今のようにハイファイ再生機器を指すようになったのかは、調べても分かりませんでした。 しかし、トーマス・エジソンが蓄音機を発明する以前にその概念があったとは思えません。

蓄音機が発明されるまで、人間の声や楽器の奏でる音楽は、出た瞬間に消えてしまうものでした。 ですから言葉は文字として残し、作曲家は自分の作品を楽譜に刻み付けることで、それらは後世に残されました。

しかし蓄音機の発明以降は、人間の肉声やその場で奏でられている楽器の音を、後世に残すことが可能になりました。 おそらくその時、「もっといい音で再生したい」という欲求が、リスナーに生まれたのでしょう。 その瞬間が「オーディオ」という概念の始まりだったのではないか。 私はそう考えています。

小さな工夫、それもまたオーディオ

ひるがえって現在、オーディオというと中高年が取り組んでいるお金のかかる趣味、というような意味に捉えられがちですが、果たしてそればかりがオーディオでしょうか。

エジソンの昔から続く「もっといい音で再生したい」という欲求に突き動かされ、ご自分の装置を少しずつでも磨き上げる努力をなさっているなら、それは立派なオーディオじゃないですか。 今は少しばかり閉鎖的なサークルと化しつつあるオーディオを、もっと多くの人の手に取り戻しましょうよ。

例えば、レコードプレーヤーを買ってきてBluetoothの設定をするだけでも、イヤホンで音楽を楽しむことは可能です。 でも、たまたま置いたサイドボードの天板が、叩くとポンポン鳴るような強度の弱い板だったとしたら、天板とプレーヤーの間に丈夫な板を1枚敷いてやるだけで、レコードの音はビックリするくらい良くなります。 それこそがオーディオの入り口だと、私は考えます。

それに、これだけワイヤレスが活況を呈しているご時世で、今なおケーブル付きのイヤホンにこだわっている人も相当の数おられます。 その人たちはかなりの確率で、リケーブルという趣味に没頭されています。 ヘッドホンやイヤホンのケーブルを交換することで、同じ製品とはとても思えないほど、絶対的な器の大きさや表現の方向が変わってきます。 「神は細部に宿る」とよくいいますが、これこそオーディオ趣味の非常に深いところです。

丈夫な板を1枚敷くだけなど、簡単な工夫でもレコードの音は大きく変わる。
丈夫な板を1枚敷くだけなど、簡単な工夫でもレコードの音は大きく変わる。

スピーカーでのリスニングはケーブルや置き方で音質が上げる

スピーカーで音楽を楽しむのなら、今度は置き方というポイントが大きな比重を占めてきます。 スピーカーをはじめとする昔ながらのオーディオ機器は、「機材のポテンシャル」が半分、「セッティングと端子類のクリーニング」が半分という感じで、その性能が発揮されると考えてよいでしょう。

もちろんヘッドホン/イヤホンと同様、機材同士を結ぶインターコネクト・ケーブルや、アンプとスピーカーの間をつなぐスピーカーケーブル、そして電源ケーブルなどでも音が恐ろしいほど変わります。 オーディオテクニカには、とても手頃なものから立派なオーディオ機器が買える価格のものまで、ケーブルはとてもたくさん用意されていますから、ご予算の許す範囲で一度交換されてみると、音の変化が味わえて面白いんじゃないですか。

インターコネクト・ケーブル「AT-IC500R」「AT-EA1000」、電源ケーブル「AT-AC700」
インターコネクト・ケーブル「AT-IC500R」「AT-EA1000」「AT564A」、電源ケーブル「AT-AC700」

大きな歴史で見ても、言葉を判別するのがやっとだった初期のエジソン蓄音機から現代の高品位オーディオまで、こちらは作り手側が「もっといい音」を求めて、新たな製品を開発し続けた150年でした。

一方最も小さなところでは、オーディオマニアの一例として私自身を挙げますが、少年の頃にスピーカーの置き方を変えたことで劇的に再生音が良くなり、それ以来「もっといい音を」というコケの一念でここまでやってきました。

あなたが音楽ファンである限り、オーディオは一生楽しめる趣味です。 何もお金をかけるばかりじゃありません。 「もっといい音」を求めて、少しずつでも進んでいこうじゃないですか。

Words:Akira Sumiyama

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