Always Listeningの、音や音楽からみる社会。 今回は「ファンダム」について。 昨年はチケットのNFT化や業界初のNFTアルバムなど、音楽業界においてアーティストとNFTの結びつきが加速した1年だったが、アーティストとファンの関係はどのように変わったのだろうか。
昨年の4月、デジタルマーケティング会社NOXはブログポストでNFTについて興味深い指摘をしていた。 「NFTは、ファンが、コンテンツクリエイターやミュージシャン、ゲーム会社、その他のエンタメとどのように関わるかという新しいトピックの最前線に立っている」。 そしてそれは、ストリーミングプラットフォームでのフォロワー数やいいね数、再生回数などの指標とは一線を画す「ファンダム(熱心なファンによる世界、文化)だ」と。 昨年続いた事例から「NFTとファンダム」について振り返る。
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NFTとファンダムの相性
ファンにとって「限定」はなによりも嬉しいもの。 なので、NFTがファンダムの新たな熱源になることは早くから期待されていた。 コンサートチケット一つとってもNFTと掛け合わせれば、ファンとの関係構築に一役買う。 チケットをNFTで作成することによって、アーティストはチケットの再販をコントロールできるようになるため「本当にコンサートに行きたいファン」に、正しくチケットが行き渡りやすくなるという利点が、まずある。
さらにこのNFTチケットはデジタルコレクションとして見なすことができ、ファンが「独占的なデジタル資産」をもてる仕組みにもなる(限定グッズと同じような役割を果たす)。
実際に米国のロックバンドKings Of Leon(キングス・オブ・レオン)は一昨年、業界初のNFTとしてのアルバム『When You See Yourself』をリリースし、開催される全てのツアーにおいて最前列の席を保証される18枚の「NFTゴールデンチケット」を販売し、熱心なファンの心(と財布の紐)を掴むことに成功していた。
この構造を、冒頭のブログポストではこう解説していた(*現在、同記事は削除されている)。
“アーティストからNFTを購入することによって、ファンはアーティストの作品に直接貢献し、彼らとの繋がりを感じることができる。 ファンのモチベーションの核には、アーティストとユニークな形で繋がりたいという願望があり、それを満たしてくれるのが代替不可能なNFTだ。 同時に、NFTコレクションの一部を所有することで、ファンは大きなファンコミュニティの一員になれる。
NFTはファンとアーティストの関係を強固なものにする存在なのだ。 ”
それを後押しするかのように、昨年5月、アーティストが独自のファントークンを立ち上げ収益化できるソーシャルメディアプラットフォーム「INFLOW Music App」が米国ロサンゼルスにてローンチされた。
アーティストが「ファントークン」を生成し、ファンはそのトークンを利用してそのアーティストの作品購入やレンタル、未リリース作品へとアクセスができる。 ライブストリームなどの限定的な体験を手にすることも可能だ。 アーティストが自身のコミュニティ内でマネタイズできるようになっており、言い換えれば、NFTを使って “アーティストとファンの直接的な協力体制で独自の経済圏を育む” ともいえる。
同プラットフォーム立ち上げの背景として同社CEOのAlexander Yoseph(アレキサンダー・ヨセフ)氏は、これまでアーティスト自身が作品に対してほとんど何も受け取ってこなかったことを挙げている。 「アーティストが自分たちの音楽だけでなく、 “自分自身を完全に収益化できるプラットフォーム” を提供したいと考えています」と話していた。
人気EDMデュオも熱狂的ファンを特定、NFTでリーチ
2014年ごろに一世を風靡した、ちょっと懐かしのEDMデュオThe Chainsmokers(ザ・チェインスモーカーズ)も、ファンダムをくすぐるNFTのプレゼントをしていた。
ミュージシャン兼プロデューサーの3LAU(ブラウ)が共同設立したNFTプラットフォーム「Royal」を通じて「アルバム『So Far So Good』のロイヤリティの一部を “熱狂的ファン” に無料で提供する」と発表。 さて、この “熱狂” はどのように測ったのか。 彼らは「最も頻繁にチケットを購入してくれたファン」「ストリーミングを最も多く行ったリスナー」等を選定基準に、3万人ほどのファンのメールアドレスから “独自のVIPリスト” を作成した、という。
デュオによると、トークンには完成したアルバムの13曲すべてからオーディオストリーミングのロイヤリティに対する1パーセントの権利が含まれているという。 「これらのトークンは、僕らのアルバム制作に多くのインスピレーションを与えてくれた熱烈なファンに無料で提供します。 新しい現代のファンコミュニティをスタートするための、僕らからの贈り物です」。
常日頃からせっせと音楽を聴き、チケットを買ってコンサートにも足繁く通ったファンたちに、いま、NFTという一つの権利でお返しする。 熱狂的なファンが、その熱を保ち続けるサイクルにもなりそうだ。
昨年半ばには、音楽協会雑誌『Billboard』が、毎月の人気曲発表にNFT観点からのランキングを追加した。 「Biggest Music NFT」として、最も人気(取引額の多かった)の音楽Top10をまとめている。
ちなみに、2月のトップはRihanna(リアーナ)のヒット曲『B*tch Better Have My Money』のNFTコレクション*だった。 米国で最も注目度の高いスポーツイベント、スーパーボウルのハーフタイムショーで一曲目に披露したことも大きな後押しとなっている。
同楽曲のストリーミング権の一部はWeb3プラットフォーム「anotherblock」を通じてNFTとして300個限定で販売され、わずか数分で完売。 購入者は曲の一部を所有することとなり、ストリーミングされたときに権利収入を受け取ることが生涯において可能であるとされた。
好きなアーティストを応援すれば、自分にもリターンがある。 これにはまだ賛否あるものの、アーティストとファンの関係性を変えていく大きな要因だ。 先月にはSpotifyがWeb3(ブロックチェーンを用いたサービス、コンテンツ)の試験的な導入を発表したばかり。 今年も引き続き、アーティストとファンの関係性をこの分野からみていこうと思う。
*この権利販売はプロデューサーによるもので、Rhiannaの認識の有無が不明であることから物議を醸した。 また、その後NFTマーケットプレイス「OpenSea」ではこのコレクション取引は停止されている。
Eyecatch Graphic: Midori Hongo
Words: Hiroko Aoyama(HEAPS)