この広い地球には、旅好きしか知らない、ならぬ、音好きしか知らないローカルな場所がある。そこからは、その都市や街の有り様と現在地が独特なビートとともに見えてくる。
音好きたちの仕事、生活、ライフスタイルに根ざす地元スポットから、地球のもうひとつのリアルないまと歩き方を探っていこう。今回は、イギリス、ロンドンへ。
ロンドンを拠点に活動する韓国系イギリス人デュオWOOZE(우주)。韓国の伝統音楽「パンソリ」*の現代バージョンをテーマに楽曲制作に取り組んでいる。80年代のパンキッシュっぽさを感じさせながらも、どこか未来的なサウンドが特徴的だ。
*パンソリ:太鼓の拍子に合わせ歌い手が歌うオペラスタイルの韓国の伝統音楽
2017年に高校時代からの仲良しだという、Jamie She(30歳)とTheo Spark(30歳)によって結成。イギリス人のJamieがドラム担当、韓国系イギリス人のTheoがボーカル担当。
「韓国とイギリスのパートナーシップを大事に思っている」という。音楽制作や普段の生活から、彼らが知っているロンドンのリアルな歩き方を教えてもらう。
二人はなにがきっかけでロンドンへ? Theoは、韓国とオックスフォードの生まれ育ち。Jamieはイングランド南部にあるウィンチェスター出身とのこと。
Theo&Jamie:2人とも大学進学のためにロンドンにやってきたんだよ。
そうなんだね。2人の出会いは?
Theo:同じ高校に通っていたんだ。学校の授業で知り合ったんだよ。
Jamie:生まれたのは1ヶ月の同い年なのに、Theoは優秀だったからひとつ上の学年にいたんだよね。
へえー!
Theo:そうそう。バンドを組もうってなったのは、あるとき2人でバーで落ち合って、お互いの音楽を聴きあったのがきっかけ。僕はJamieの曲を聞いて最高だなと思ったし、Jamieも僕の曲を聞いてとても気に入ってくれた。バーで話が盛り上がって。「なんか一緒におもしろいことやろうよ!」ってなって、バンドを組むことになったんだ。
それで、ロンドンをベースに音楽活動を開始。
Theo:やっぱり、ロンドンってイギリスで一番の街。この街にはなんでもある。街並みも綺麗だし。友達もガールフレンドもここにいるし。それに、なんといってもロンドンではふざけた服を着ても誰も気にしないから最高。
2人でよく行くご飯屋さんとか、ある?
Theo:「Silk Road London」っていう超安い中華料理店によくいく。一時期は、2人で毎週通ってたよ。僕らの家の近所でさ、多分どこのレストランよりも多く訪れたと思う。
中華いいねえ。いつも食べるお決まりのものは?
Theo:回鍋肉(ホイコーロー)だね。超おいしい。ここは麺類もおいしい。
ロンドンの韓国料理店は、どう?
Theo:近所の韓国料理屋「CheeMc」では、韓国風のフライドチキンが食べられる。これもとってもおいしいよ。
Jamieは、Theoと出会う前から韓国の食文化やK-Popについての興味や知識はあったりした?
Jamie: Theoに会うまでは、韓国文化や韓国料理についてなにも知らなかった。Theoが韓国のいろんなことを教えてくれたんだ。僕らがWOOZEを結成してからは、韓国でライブをする機会もあったよ。本場の韓国焼き肉を食べたり、MVを撮影したり、現地の友だちもできた!
二人がバンド結成してから約5年。その間にK-PopやKドラマの爆発的人気上昇などあったわけだけど、英国において韓国に対する認識って変わったと感じるところ、ある?
Theo:そうだね、振り返ってみると、韓国に対する認識は大きく変わったよ。昔は韓国人だからっていう理由でいじめられることもあったんだよね。だけどいまは、みんな韓国に敬意を払ってくれるようになった。韓国ファッションも成長しているし、BTSも世界中で大人気だし。韓国人だけでなくとも、欧米で活躍しているアジア人を、僕は本当に誇りに思う。
Jamie:ロンドンの人たちにはいまいち韓国の魅力が伝わっていないなーと思う部分がまだあるよ。韓国は超クールな国なのに、バスに貼ってある韓国旅行ツアーの広告とかめちゃくちゃださかったりして。こんなひどいポスター見たことないってくらい、デザインが最悪だったんだ(笑)。きっとこの広告を作った人は韓国になじみがなくて、大人気韓国ドラマ『イカゲーム』も見たことないんだろうなってしみじみ思うよ。まったく!
いま2人でよく行く、韓国の人がやっているお店とかも、あれば教えて。
Theo:韓国スタイルのカラオケ屋「Sing Sing」。超楽しい。
Jamie:雰囲気とかもすごい韓国なんだよね。ロンドンに居ながら、韓国に来た気分になる。
2人はロンドンのどのエリアが一番のお気に入り?
Theo:ロンドンの南東部にある「Peckham」っていうエリアかな。スタジオもPeckhamにあるし、バーとかパブとかもPeckhamで行くことが多い。
Jamie:僕的に、ロンドンの南部に住む人たちの方がもっと(考え方とかが)オープンな感じがする。
住む場所って、住む人ってそりゃそうだけど変わるよね。2人で夜の街にくりだすことも多いみたいだよね、最近ロンドンではどこのベニューが熱いか教えて。
Jamie:いつも2人でいるときは、バンドの事ばっかり考えてるから、たまには一緒に夜遊びしたりするのが楽しい。
Theo:この前は「EartH」っていうベニューに行ったよ。超楽しかったよね? ロンドンのヒップな若者たちから、おじさんおばさんたちまでいるんだよ、いろんな人たちが集まる。
Jamie:うんうん。ここはいつ行ってもいい感じだよね。300人くらい入れる大きいベニューでさ、いつもイケてるバンドがパフォーマンスしてるんだ。
年齢が幅広く集えるって、いいベニュー。最近はどんな音楽が流行ってる?
Theo:ギター演奏のポストパンク(1970年後半以降のパンクのDIY精神を受け継いだインディー音楽)かな。年齢関係なく、ポストパンクは人気がある。でもだからこそ、ロンドンにはポストパンクバンドが多いんだよね。僕らとは、ちょっと違うジャンル。
WOOZEは、ロンドンを拠点に「現代社会のPansori(パンソリ)」というコンセプトで韓国伝統音楽要素を取り入れて楽曲制作をしてるんだよね。確かに、ロンドンの他のバンドと音楽の系統は被りっこなさそう。
Theo:うん。僕らと同じことしている人は多分他にいないと思う。
「現代社会のPansori(パンソリ)」って、二人はどういうものとして表現しているの?
Theo:パンソリは太鼓とボーカルで構成されている。僕らもJamieがドラムで、僕がボーカルを担当。パンソリみたいな歌声で僕らは歌えるわけではないけれど、韓国の音楽要素と英国の音楽要素を楽曲で融合しようとしている。昔ながらの伝統のパンソリというよりかは、「21世紀の新しいパンソリ」っていう風に僕らは認識している。
新世代のパンソリか。韓国らしさと英国らしさは、楽曲やMVでも意識的に取り入れている?
Theo:そうだね。韓国らしさ、ロンドンらしさ、そのどちらの要素も作品に詰め込んでいる。
Jamie:2つの国の文化を融合させるっておもしろいアイデアだと思うんだ。韓国の文化って、少し英国の文化に似てるところもあったりしてさ。お互いの文化を探究するのは興味深いこと。韓国の文化も、イギリスの文化もどちらも祝福するという気持ちを込めているんだ。
作詞作曲も2人で一緒にするらしいね。
Theo:音楽を作るときは、お互いを笑わせようとしてアイデアを出し合ってる感じ。誰かを楽しませるには、自分本位の作品制作ではだめ。パートナーシップがいい曲作りにはとても大事だと思うんだ。だから、いつも楽曲制作はスタジオで一緒にやる。
たまに揉めたりすることも?
Jamie:うん。それはつまり、悪いアイデアもいいアイデアも、なんでも正直に言い合えるってこと。(揉めても)気まずくなったりしない。Theoとは長い付き合いだし、他の人とはできないかもだけど、Theoとなら共同の楽曲制作もうまくいく。
Theo:うん。お互い、すごい正直だよね。Jamieに「うーん、(そのアイデアは)微妙かも」とかって言われても「オッケー。うん。確かに微妙だな」って僕も素直になれるんだよね。
ロンドンのいいところってさ、僕らのように音楽活動をしている人がたくさんいて、落ち込んだり、自信を失ったりしても、お互い励まし合ったり、刺激しあったりすることができるんだよね。
Jamie:間違いないね。
WOOZE(우주)/ウーズ
韓国系イギリス人のTheo Sparkとイギリス人のJamie She、高校時代からの友だち二人で結成されたデュオ。2017年デビュー以来、ロンドンを拠点に活動中。
「現代バージョンのパンソリ」をテーマに、イギリスのパンクロック×韓国の伝統音楽を融合させた楽曲の数々を手掛ける。男女の恋の駆け引きを描いた楽曲『I’ll Have What She’s Having』、家族写真についてのストーリーをポップに描いた楽曲『Family Picture』、憧れの女の子Sariとのパーティーの様子を描いた楽曲『PARTY WITHOUT YA』等をリリース。二人のポップでジェンダーニュートラルなビジュアルで生まれる世界観、MVの不思議な世界観もまた病みつきになる。
All images via WOOZE
Words: Ayano Mori(HEAPS)