安定したメンタルヘルスで、クラブパーティーに挑んだら?
パーティーに心身の健康を持ち込むために試みられた、“パーティーパッケージング”が興味深い。ある1日のパーティーのために、その前5週間ヨガとサウンドバスで整える。パーティー後の1週間で、踊り遊んだギャップを再び整えていく、という流れ。
パーティーとウェルビーイングセッションを組み合わせを試みるのは、ロンドン拠点のプロジェクト「Alayways Sunny」。たった1日のパーティーを“6週間のイベント”にしている。
EDMパーティーチケット+前後の整えチケット
「パーティー三昧の日々を送っていたら、メンタルヘルスが不安定になり、自分に自信が持てなくなってきたんだよね」とは、ロンドン拠点のDJ、Sunboi。8年間ほど音楽業界で働き、自身のメンタルヘルスの安定が危うくなったことを機に、パーティーによる“メンタルのブレイクダウン”を解消すべく「Always Sunny」を発足。今回新たに考案したのが、EDMパーティーとメンタルヘルスケアの組み合わせだ。6週間のウェルビーイングセッションとEDMパーティーを組み合わせるという、いわばパーティーのパッケージングになっている。
DMパーティーのチケットを購入すれば、無料でパーティー前後のヨガとサウンドバスの6週間セッションがセットでついてくる。パーティーの5週間前から、心身の整理を開始。ヨガセッション、サウンドバスセッションを受けていく。パーティー当日は思いっきり楽しむ。パーティー後に再びウェルビーイング期間を1週間設け、ヨガとサウンドバスセッションで自身をアフターケアしていく、というもの。
いまのところかなり評判がいいらしい。チケットは完売、参加者のリピーターもかなり多いという。パーティー当日の雰囲気も、当然いい。というのも、5週間のセッションをともに行ってきていることで、すでに顔見知りになっている人が多いからだ。終始アットホームな雰囲気で、EDMパーティーを終えるという。
今回の“6週間のパーティーパッケージ”の中身をもう少し知りたく、Always Sunnyを運営者のSunboiに聞いてみた。
Sunboi自身、EDMパーティーとメンタルヘルスのバランスが取れない時期を経験したことが、EDMとウェルビーイングに特化したプロジェクト発足のきっかけだそうですね。
8年音楽業界で働いているんだけれど、音楽パーティーとのメンタルヘルスのバランスを取るのが難しくなってきたんだ。付き合いもあるし、知り合いのパーティーにもかなりの頻度で顔を出しているうちに、不健康になっていくのがわかった。自分に自信を持てなくなっていく感じもあって…。それで、音楽パーティーを楽しむことと、メンタルヘルスや体の健康を保つことのバランスが大事だと思いはじめて。そういうスペースを作りたいなって思ったんだ。
特にEDMパーティーって、思い切り楽しめる反面、パーティー中のふとした瞬間や、帰宅したあと、次の日にギャップでダークサイドに落ちたりする。
そこで、ヨガとサウンドバス、そして瞑想。そもそもそれらは気持ちが安らいだり、晴れたりするでしょう。それで、心を整えてからパーティーをするのはどうだろうと。
それでまず、パーティー前後に5週間のウェルビーイング期間を設けたんですね。パーティーチケットとセットにしたことがおもしろい。
より多くの人にオープンにできるように、チケット価格も12ポンド50セント(日本円で約2,000円)という手頃な値段にしたんだよ。
これでヨガなどのセッション込みですか? 安い!!!
ヨガ・セッションを6回、サウンドバス・セッションを6回、受けられる。水曜にサウンドバス、木曜にヨガ。セッションは「Stretch」というジムに協力してもらっているんだ。
なるほど。パーティー前の5週間に毎週どちらも1回ずつ受けて5回、パーティー後の1週間で、それぞれ一回受けて、6回。セッションではどんなことを行っているんでしょう。
ヨガは、呼吸とポーズをリンクさせるヨガスタイル「ダイナミック・ヨガ」、止まることなく独自の呼吸方法とともに動き続けるヨガスタイル「ヴィンヤサ・ヨガ」を採用している。ヨガインストラクターはTom Pardhy。Tomは世界中を飛び回ってヨガのセッションをしてきた経歴があるんだ。
へえー。ダイナミック・ヨガやヴィンヤサ・ヨガは、安定した精神状態を培うのにいいらしいですね。サウンドバスの方はどうでしょう。
サウンドバス・セッションの日はね、スタジオに到着したら、まず瞑想をおこなう。その後、サウンドバスに。三つの楽器から特定のリズムでハーモニーが織りなされ、その音色を聞きながらヨガマットの上に寝転がる。体と心がレム睡眠状態もしくは、それに近い状態になるんだ。レム睡眠というのは、つまり夢を見ている状態、高速スピードで眼球が動いている状態のことだ。
短時間のサウンドバスで、まるで6時間くらい睡眠したように心身ともにエネルギーがみなぎったり、いろんなビジョンが見えたりする人もいる。みんな同じ部屋にいるのに、人それぞれ違う効果があって面白いよね。
面白いです、やってみたい。
いつもの睡眠で見る夢とは全然違う。とても鮮明なんだよ。一度僕が見たビジョンは、サウンドバス中にレム睡眠状態になっている自分の姿を、上から見下ろしていた。目を開けたら、自分の体にスッと戻って…とても不思議な感じだった。毎回こういうビジョンが見えるってわけではないけれど、サウンドバスや瞑想を重ねるほど心と体が次第にオープンになりやすくなるよ。
へえー。パーティー前の方を5週間にしているのは、やはり準備期間に重きを置いているから?
一人ひとりが自己啓発にじっくりと取り組んで欲しいから、パーティー前はゆっくりめに5週間のセッションを組んでいるよ。それから、参加者同士の繋がりをパーティー前に構築するのも、とても大切な要素だと僕は認識している。一緒にセッションを重ねてきた仲間たちと、ダンスフロアで一緒に盛り上がる、という経験にしたくて。
なるほど。そもそもウェルビーイングに興味がある人たちが集まるパーティーは、ポジティブな雰囲気がありそうですね。
みんなが自身のウェルビーイングを考えているから、ダンスフロアにいいエナジーを持ち込むことができると信じている。実際に、アットホームな雰囲気でパーティーができたよ。僕自身もクィアだからこそ、いろんな人にとって居心地がいい場所というのはすごく大事。
なるほどなあ。パーティー後の1週間で、また整えていく。
当初は、パーティー後セッションの需要はそこまで高くなかったから、1週間しか設けていなかったんだ。でも、このプロジェクトを開始して、パーティー後のセッションの大事さにも気づきはじめてさ。内容は、パーティー後のセッションはパーティー前に身に付けたセッションをおさらいしていくんだ。
いまはまだ僕ひとりでAlways Sunnyを運営しているというのもあってまだ手をつけられていないけれど、いずれは長期でパーティーとセッションを繰り返すことができるようなプロジェクトにできればいいなと考えてるんだ。
年間通してのプロジェクトになると、ウェルビーイングとパーティーという楽しみが習慣化される感じですね。
このプロジェクトはまだ始まったばっかりだけど、コミュニティが成長しているのがすでに感じられるんだ。少し前まではたくさん空きがあったのに、いまではヨガとサウンドバスのセッションは全て売り切れ。
EDMパーティーってなんだか不健康なイメージを持たれているでしょう。ウェルビーイングな人はナイトクラブに行ったりするイメージがない、というか。このプロジェクトを通して、ウェルビーイングとパーティーの壁を無くして、共存できるスペースをつくっていきたい。
Eye catch image by Sunboi
Photos by KievRø
Words: Ayano Mori(HEAPS)