Always Listeningの、音や音楽からみる社会。今回は「音楽とNFT」について知っていきたい。突如として音楽界に現れ、ますます勢いづくNFT。NFTはどのような恩恵を音楽アーティストにあたえている? 音楽業界全体の発展にどう貢献する?

火付け役はEDMアーティスト? Eminemも

まずは、日常的に耳にすることになったNFTとはなんなのか、から。NFTとはNon-Fungible Tokenの略で「非代替トークン」という意味。2014年くらいから市場に出現した、暗号通貨を使用して売買される、資産として価値のあるデジタルデータのことだ。

NFTは、アートや音楽レコーディング、チケット売買などまで、「デジタルアート作品を売買する方法」として注目されている。大きな特徴の一つは「デジタル資産の複製や改ざんを防ぎ、データや作品自体が作者、権利者の手を離れても彼らに収益の一部が還元されるようにできる」ことだ。長い間、音楽アーティストたちが抱えていた著作権侵害や非合法的なディストロなどの問題を解決し、正当に収益を得る手助けにもなっている。

音楽業界にNFTを持ちこんだのは、テクノロジーの共通点がある「EDMアーティスト」たち。2021年、アメリカのDJ兼プロデューサー3LAUは、アルバムをNFTとして販売した最初のアーティストで、自身のアルバムの“NFT版33枚”をオークションにかけ、最終的な売値は1,170万ドル(約15億円)だった。
以降、カナダのミュージシャン、GrimesやシンガーソングライターのShawn Mendes、カナダのR&Bシンガー、The Weekndなどのアーティストがあとに続き、自作の「NFT版」をリリースしている。今年3月には、ラッパー、Snoop DoggがNFTレーベル宣言。自身が所有するギャングスタラップ・レーベルDeath Row Recordsが業界初のNFTレーベルになると発表するなど、常にホットな話題が続いている。

すでにNFTで成功を収めているアーティストをあげるならば、なんといってもまずは、アメリカのDJ兼プロデューサー、Steve Aokiだろう。ドイツの有名なビジュアルアーティストAntoni TudiscoとコラボしてリリースしたデビューNFTコレクション『Dream Catcher』は、NFTオークションプラットフォームNifty Gatewayで大ヒットを収め、425万ドル(約5.4億円)を売り上げた。その翌月には同プラットフォームで178万ドル(約2.2億円)稼いだのは、あのラッパーEminemだ。

SXSW2022はNFT祭り

テキサス州オースティンで毎年3月に開催される音楽・映画・最先端技術の祭典、サウス・バイ・サウスウエスト(略してSXSW)。今年の会場でもNFTの存在は当たり前になっていて、「限定感ある体験」の提供が目立った。たとえば、FOX EntertainmentのNFTスタジオ「Blockchain Creative Labs」はデジタルウォレットを通して「イベントに参加したことを証明」できるNFTバッジ(通称POAP)や、限定版NFTの購入機会を参加者に提供していた。

SXSW注目のスタートアップには、フランスの音楽NFTマーケットプレイス「Pianity」をあげたい。音楽アーティストのNFTを購入して、新しいアルバムに独占的にアクセスしたり、プライベートコンサートに参加したり、将来的には印税の一部の共有も可能にするサービスだ。NFTの販売を通してアーティストがファンとの繋がりを深めることで、音楽業界に革命を起こそうとしている。

最後に、あのNirvanaのカート・コバーンとNFTについてのニュースも。彼のトレードマークであり『Smells Like Teen Spirit』のMVでも演奏していたギター、フェンダー・ムスタングが今年5月にオークションに出されたのだが、あわせてNFTも出品されている。カートの長年のギターテクニシャンだったEarnie Baileyがこのギターについて語るというデータで、マニア垂涎の限定NFT。最終落札額などは、また追ってレポートしたい。

Eyecatch Graphic: Midori Hongo
Words: Hiroko Aoyama (HEAPS)