海のイメージが強いけれど、島の山中には原生林が残る手付かずの自然がまだ残っている沖縄。その沖縄の自然の素晴らしさを体験できるのが、今年8月に本格的にサステイナブル(持続可能)なリゾートとしてスタートした「Treeful Treehouse(ツリーフルツリーハウス)」だ。360度、森を見渡せるスパイラル・ツリーハウスと、サステイナブルを考えデザインされた、一流ホテル並みの内装を完備したエアロハウスに宿泊すれば、普段忘れかけていたプリミティブな感覚を取り戻すだけでなく、自然と共存することで地球の尊さを再認識できることと思う。そんな魅力に溢れたミラクルなリゾートを運営する菊川万葉さんに、「Treeful Treehouse」の魅力を聞いてみた。
菊川さんが「Treeful Treehouse」に携わるようになったきっかけを教えてください。
高校、大学とアメリカの学校へ通っていて、大学の卒業旅行で父と一緒にコスタリカへ行ったのですが、そのときにツリーハウスリゾートに泊まりました。父は子供の頃からツリーハウスを造りたいという夢があって、その旅行をきっかけに2014年からツリーハウスを沖縄で造り始めたんです。もともと私は、東京でイベントプランナーとして働いていましたが、週末は沖縄に行って父と一緒にツリーハウスを造るようになりました。そうしているうちにだんだんと本格的にやってみたいなと思い、フルタイムでツリーハウスのビジネスを手伝うようになったんです。そしてツリーハウスをホテルにしていく上で、そのプランニングや運営の責任者を私がやることになりました。現在は、父がツリーハウス・ビルダーを率いてツリーハウスを造っていて、私が運営、PR、マーケティング、そしてインテリアを担当しています。
お父様と一緒に「Treeful Treehouse」を運営されているんですね。
『おおきなきがほしい』(さとうさとる著)という絵本があるんですが、父はその絵本を子供の頃に読んでいて、その本の中に出てくるツリーハウスをずっと造ってみたいと思っていました。私は子供の頃から毎週のように、父に自然の中に連れて行ってもらっていたので、私自身が自然に対して恩返しをしたいという思いもありました。それで、父がツリーハウスを造ってサステイナブルな世界を作りたいということと、私のやりたいことが一致したので、一緒に「Treeful Treehouse」を始めることにしたんです。沖縄には原生林がたくさん残っていて、ツリーハウスに向いている太い木があるんですが、最初はそれがどこにあるかわからず、不動産の方に聞いても皆さんわからなくて。それで自分たちの足で木を探しに沖縄のいろいろな場所を回ってようやくいい赤木を見つけて、その木で2番目のツリーハウスを造りましたが、目の前に沖縄で1番綺麗な川と言われている源河川が流れていることもあり、リゾートとしてすごくいい立地だと気付き、その敷地でやることにしました。沖縄は海が知られていますけど、山も凄く綺麗なのでそれもぜひ知ってもらいたいという気持ちもあり、今に辿りついた感じですね。
自然へ恩返しをしたい、という菊川さんの思いもこのプロジェクトが始まったきっかけでもあるのですね。
私はマイアミ大学で生態系科学を勉強していたのですが、在学中にガラパゴス諸島へ数カ月留学をして、環境学を学んでいました。そこで身を持って生物学を学んで日本へ帰ってきたこともあり、何か自然に対してできることをやりたいなと思うようになりました。ガラパゴス諸島には、ガラパゴスでしか育たない生物や植物がいて、エコシステムが整っているんですね。それと同様に「Treeful Treehouse」でも、なるべく地産地消でやっていきたいなと思っています。実際にインテリアで、他の地域のものを持ってくるとカビが生えてしまったり、沖縄の風土に合うものでないと無理だったりすることもあるんです。
ツリーハウスは、どのように造られている建物なのですか?
普通の建築物は土地からどんどん上に乗せていくんですが、ツリーハウスは木の上から釣るので、上から下に造っていくものなんです。柱が下についていて、その上にハウスを造っているものも見かけますが、厳密にはツリーハウスとは異なるんですね。私たちは柱がまったくない、土にハウスがついていないものを本物のツリーハウスだと思っているので、木にワイヤーをかけて、木からすべてを釣ってツリーハウスを造っています。なので、地上の家の大工仕事をしたことがあるからといって、ツリーハウスの作り方がわかるわけではないのです。
釣った建物となると、また異なる知識が必要ですよね。
平行でないといけないし、地震、台風などに耐えられるツリーハウスを造る建築的な計算をし、NASAの安全基準法と同じ安全基準に則って造り、やっと完成させることが出来ましたが、最初は大変でした。
「大人になっても冒険に出よう!」というスローガンもいいなと思いました。実際にツリーハウスやエアロハウスに宿泊をすると、どのような体験や冒険ができるのでしょうか?
コンセプトが「自然と共存をしてほしい」ということなので、ハウスの窓をできる限り大きくして、ツリーハウスの方は360度窓にして森を見渡せるように、エアロハウスの方も全面が窓になっているので、心地良くなれて、どれだけ自然に近づけるかを考えました。あとはアクティビティ・コンテンツで、弊社のバトラーが無料で連れて行ってくれるリバートレッキングがあるのですが、目の前に流れている源河川の中を歩いて、2つある滝を回って帰ってくるという内容になっています。手付かずの自然を楽しむアクティビティには規制が多いのですが、私たちのリゾートでは楽しんでもらえると思います。また隣の東村にリュウキュウヤマガメという亀を保護するために購入した岬があるのですが、2日以上宿泊のお客様は、その土地の海が見える崖へ行ったり、河口へトレッキングをするツアーもあり、そのツアーには滝で泳いでいるエビを見るというオプションもあります。その滝には100年前、水車があったそうです。私たちが土地を購入したときは、滝の周りに沢山のコンクリートが置いてあり、それが自然破壊をしていました。そのコンクリートを取り除いて、昔の沖縄を取り戻すために水車を造ったのですが、地元の方々は自然の中に水車が戻ってきたことを喜んでくれました。
沖縄大自然満喫ツアーという感じですね。8月にオープンしたエアロハウスの内装が素敵ですが、魅力を教えていただけますでしょうか?
「Treeful Treehouse」では、ツリーハウスとエアロハウスにセットで宿泊する形になるのですが、そのエアロハウスの内装デザインを空間デザイナーの小市泰弘さんにしていただきました。小市さんはこれまでに、海外のホテルなどグローバルに活躍されていて、日本では東京、京都のザ・リッツ・カールトンや、大手町のフォー・シーズンズホテルのインテリアを始め、数々のラグジュアリーな空間をデザインされた方で、私たちのエアロハウスの内装も本当に素敵にデザインいただきました。例えば本棚の柱は、目の前に流れている源河川に生えている木を使って作っていただいたんです。今、エアロハウスとツリーハウスのセットを増やしているので、エアロハウスの内装はこれからも小市さんにやっていただこうと思っています。
ツリーハウスがある場所では、どんな音が聞こえてきますか?
木のざわめき、風が自然の中を通る音、源河川の流れる音、いろいろな鳥の声や、今はオオシマゼミの鳴く声が聞こえます。川は静かに流れる日もありますし、雨が降ると嵩が増えるので凄い音になりますし。季節によって葉の量も違うので森の中の音も変わってきますし、本当に毎日その日によって聞こえてくる音が違うので、それも楽しみのひとつでもあります。
夏にアコースティック・ライブを開催していましたが、どんな内容だったのですか?
先日、「Treeful Treehouse」という曲を作詞作曲していただきまして、私たちの仲間であるアーティストの方々に曲を演奏していただいたり、オープニングパーティの際にはBEGINの島袋優さんにも出演いただきました。いろいろな方々が楽器を弾いて、歌って、沖縄ならではの楽器も演奏して。これからもどんどん音楽とのコラボをやっていきたいなと思っています。それと今は、食事をしているときのバックグラウンドミュージックについて考えています。食事をしていただく場所が半分屋外になっているので、自然の音があるにせよ、音楽を一緒に流してもいいかなと思っています。
今後、菊川さん自身がやってみたいこと、冒険してみたいことはありますか?
まず今ある沖縄の「Treeful Treehouse」を世界一のツリーハウスリゾートにして、その後海外に進出できたらいいなと思っています。「カーボンニュートラルを目指す」と最近はよく言われますが、カーボンニュートラルというのは、温室効果ガスの排出量と吸収量を同じ量にするという意味です。ツリーハウスは生きた木で出来ているので、カーボンネガティブ……排出する二酸化炭素よりも、吸収する二酸化炭素の方が多い状態なので、ニュートラルよりも更に環境に良い影響があるということなんですね。つまり、ツリーハウスが多くなるほど環境が改善していくので、その考えを日本に留まらず世界にも広げていきたいと思っています。
菊川万葉/Maha Kikugawa
株式会社ツリーフルCOO、共同創業者、取締役。高校時代をカリフォルニア・サンタバーバラで過ごし、フロリダ・マイアミ大学在学中にガラパゴス諸島に数ヶ月間滞在し生態系学を学ぶ。帰国後は語学力を生かしイベントプランナーとして活躍するも、スポーツ、自然をこよなく愛することから、lululemonアンバサダーを始めさまざまな分野でも活動。コスタリカの旅で出会った大自然の中にあるFinca Bellavista(フィンカ ベヤビスタ)と呼ばれるツリーハウスに影響を受け、2014年より父、菊川曉とともに沖縄にてツリーハウスを造りだす。現在は東京、沖縄を行き来し、サステイナブルなリゾート「Treeful Treehouse」を運営中。
Photo:Shuichi Yamada
Film:Kazuki Uechi