Shuttle Hotelの記事の続編。
今回はShuttle Hotelに乗って福井県へ。
「みんなヒマは嫌いなのか?ヒマはダメか?悪いのか?そんなに嫌か?ヒマが」という具合に緩く核心を突いた曲。
時間は人間みんなに平等に与えられたもの。それをどのように使うかで人生は形成される。となると暇な時間は短い人生の中で無駄な時間なのか!と一瞬焦ってしまうのは当然。しかしこの連載では暇(ヒマ)という概念を「自由に使える時間」としてポジティブに捉えたい。
やらなくてはいけない事(仕事や義務など)の間に生まれる隙間が暇だとしたら、それこそ有意義に使いたい。そんな暇な時間を楽しく過ごせる連載になればいいなと思う。
日本各地のお酒とレコードを掘りたい
記念すべき連載初回の目的地は、北陸の最南部に位置し、日本海に面した福井県に設定した。福井県といえば、ですぐに答えが出る人はなかなかの玄人だ。実は日本酒、和紙、メガネなど、ものづくりで有名な土地らしい。福井県内にはオーディオテクニカの工場もあって、僕の使っているレコードの針(カートリッジ)も製造していると知り、初回にしてこの企画との親和性を感じ始める。
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到着して早速、福井市の全体が一つのテーマパークになる音楽フェス「ONE PARK FESTIVAL(ワンパークフェスティバル)」を運営するオウデム株式会社 代表取締役の勝田 達氏に今回の企画内容を話した。
「Shuttle Hotelでお酒とレコードを巡る旅をしたいんだけど福井どうかな?」
このざっくりとしたアイディアに彼は想像以上のアンサーをくれ、すぐに酒蔵とレコードショップの候補をリストアップしてくれた。「それに加えて石川も是非紹介したい」と言うことで今回は福井県から石川県を目指して旅をすることに。
都内から福井市内までは休憩も入れて片道8時間くらいはかかる車での旅。名古屋まで行って日本海側に北上して行くイメージ。関西からだともっと気軽に行ける距離かもしれない。
ドライブを楽しみながら福井市内に到着。
オーディオテクニカフクイ
ALWAYS LISTENINGの連載と言うことで特別にオーディオテクニカフクイ(以下ATF)の工場にお邪魔することに。
ATFの市橋政信氏が案内してくれた。
ATFには、日本では自社所有していることは稀な無響室(遮音と吸音を極めた精密機器の検査をする施設)や、電波暗室(ワイヤレス商品の設計開発に欠かせない電波測定装置のような施設)といった見たことのないSFの世界に出てくるような設備を完備し、高級レコードカートリッジやワイヤレスマイク・イヤホンなどを設計・製造している。
なぜ福井県にAudio-Technicaの工場があるんですか?
市橋氏:福井は創業者の出生地で、高度経済成長でたくさん注文が入ってきた時、福井でものづくりができる工場を作ることになったのです。
創業者が小さい時に心振るわせたレコードもあるんです。蓄音機で聴いてみます?これが我々のルーツでもあるので。
人生で初めて蓄音機から流れる音楽を聴かせてもらった。室内に流れるヴァイオリンの旋律を聴きながら、Audio-Technicaの創業に至る情熱の一端に触れられた気がした。
FLAMINGO RECORDS
福井市内の中古レコードショップで草刈正雄の『ファースト』購入
到着した日の夕方、市内から車でちょっといった大通り沿いにあるレコードショップに来た。
外から見るとかなり目立つ建物。駐車場の傍から2Fに上がると、どーん!
100平米ほどの広々とした空間に整然と並んだ大量のレコードが目に飛び込む。
この旅の目的の一つであった、レコードをディグする時間が意外と無い!ということで和物セクションを重点的にせめることにした。
王道CITY POPから変化球までかなりの和物コレクションがある。僕は和物を掘り始めたばかりであまり知識はない。
でもせっかくだし聴いたことのないレコードを買おうと思い掘っていると、草刈正雄のレコードを発掘!この人って歌手だったんだ、なんて思いながら自分と同じハーフの先輩のレコードを購入。
親切にレコード探しを手伝ってくれたフラミンゴレコードのオーナー中野秀彦さんと少し話してみた。
フラミンゴレコードはいつオープンしたんですか?
中野氏:もともと東京のDisk Unionで働いていたんですが、29歳の時に福井の駅前にフラミンゴレコードをオープンしたんです。今店舗を構えている場所はもともと1Fと2Fがあったんですが、89年に産業がCDプレーヤー全盛期になったことをきっかけに1Fを貸し出し、2Fのみで展開するようになりました。
どのようなお客さんが来るのですか?
中野氏:現在一定の客層というより多様な世代のお客さんがいて、メインは男性ですね。89年〜2000年のR&B / HIPHOPが流行った時は若者がとても多かったです。
淡々と30年前の話をしてくれる中野氏。僕が生まれた頃の知っているようで知らない時代。
中野氏:何十年もやっているから認知されているけれど、人口が少ない場所でものを売るのは簡単ではないと思います。今の時代、ものはネットで買える。
ものは確かにネットで買えるけれど、それ自体が旅をするきっかけにもなり、そこで偶然出会った人と話し、心が動くような経験をして”音楽”を購入するプロセスの楽しみを僕はこの場で強く感じた。
2021年にレコードを聴く意義?
中野氏:これは単純にレコード誕生から現代に至るまでの音の記録がものとして残っているということ。その存在は大きいと思います。それを発掘する面白さではないでしょうか。
レコードの値段はピンキリだけど、仮に高いレコードでも自分の知らない世界へ行く旅の切符代として考えたら安いものだと思う。それにこの切符は一度買ったら永遠にその場所にまた連れて行ってくれる。
中野氏、親切にありがとうございました!
福井の食材と日本酒が味わえる海月 (クラゲ)で夕食を楽しんだ後、勝田氏がローカルの若者を集めて和物レコードを聴く会を設けてくれた。福井にはいくつかバーやクラブがあるが、カーサというクラブ・ラウンジの音楽クオリティは相当高い。県外からも有名なアーティストが結構来ているらしい。福井でスタイリッシュに飲むならここ!この夜は早速フラミンゴレコードで入手した和物レコードを福井ローカルにお披露目。
常山酒造合資会社
福井のハイエンドブティック日本酒
滞在2日目、待ち遠しにしていた日本酒ディギング!
福井県は豊かな自然に恵まれ、海と山の旬な食材が揃う食の宝庫として全国的に有名。
日本有数の米どころでもあり、近隣の山々から流れる清流もある。福井県はお酒造りをする上で環境と気候どちらをとっても最適な場所なんだとか。今回取材をさせていただいた常山酒造さんの仕込む ”淡麗旨口” は、すなわち“越前辛口”を表現する酒づくりを特長としている。
蔵元の常山晋平専務と、麹作りと研究室での分析を担当する青山氏にお話を伺うことができた。
常山酒造は1804年創業、現在9代目。この銘柄は早くに他界した専務の父親が立ち上げたもので、今は母親が経営、9代目が杜氏を任され酒造りに励む。酒蔵は街の中心地に位置し、酒蔵では珍しいとのこと。今回伺ったタイミングは冬の間の長い酒造りが終わり、酒蔵の中はスッキリしている状態だった。
いきなりですが、専務が目指すお酒は?
常山氏:透明感のある、食事と合わせやすい酒造りを目指しています。
年間の生産量は?
常山氏:年間500石です。
石?
常山氏:日本酒の生産ボリュームを表すのに昔から使われている言い方なんです。僕らの業界では「どれくらい作ってるの?」「〜石くらい。」といった会話は普通。これは昔、お米の使用量で生産高を判断していた時代の呼び方で、お酒もお米からできているので今もこの呼び方を使っています。
冬以外にお酒は作れないのですか?
常山氏:実際は設備的に生産することは可能ですが、夏に作ると気温や湿度の関係で結露、カビなどの問題がある。それに加えてやはりお酒はお米が取れたことのお祝い事で作るもの。この自然のサイクルを守って酒造りをすると言うことは我々の大事な考えなのです。
酒造の入り口にある出荷場から奥に入って行くと蒸し器のようなものがずらりと並ぶ。それらの隣には研究室や巨大冷蔵庫が点在している。
その奥の木造の空間に案内され入っていくと大きな樽がいくつも並んでいる。僕の知っている酒造のイメージだ。
この大きな空間が蔵ですか?
常山氏:ここは築70年の土蔵です。近年リノベーションを行い、職人の働く環境を整えると同時に、魅せるという部分にもよりフォーカスしています。
専務に案内されタンクが並ぶ土蔵の一番上まで階段で上がると、そこにはショールームさながらの空間が広がっていた。
常山氏:ここは来客をもてなしたり、イベントを行ったりするスペースです。例えば初搾りのイベントで搾りたてのお酒をその場で汲んで頂く企画などを開催しています。
秘密基地を思わせる屋根裏のような空間で、今後は音楽と日本酒を絡めたイベントなどを思案しているとのこと。
お酒造りは奥が深く、最先端の科学と培ってきた感覚、その両方の力を合わせて酒蔵の“らしさ”を追求するもの。また、自然の流れに敬意をはらい、世代交代することで時代の流れに配慮する。今までの手法や慣例を少しずつ取り払らいつつ大切なメッセージを守る。これらのバランスを保つことを求められる。この姿勢は人事的な部分にも現れているようだ。
日本酒業界は男社会ですか?
常山氏:そうですね、基本男社会です。理由としては酒造りは力仕事や過酷な作業が多いからですかね。
女性が活躍する場所はありますか?
常山氏:女性が活躍できるフィールドはもっと開拓できる、女性が持つ心配りや繊細さを酒造りに落とし込みたいと思っています。
麹作りを担当する青山氏に今後どのようなお酒を作っていきたいのか聞いてみた。
青山氏:私は音楽が好きで、悲しい時や楽しい時、気分によって聴く音楽のチョイスも変わります。悲しい時には悲しい曲が合う時もあれば、逆に楽しい曲が必要な時もある…という具合にお酒にも人の心に寄り添う力があると思うんです、なので感情に合わせたお酒造りをしたいと思います。
常山氏:すごい面白い、もっと早く言ってよ!
BABYMETAL好きのバンドガールである青山氏の作る感情に寄り添うお酒、いつか飲んでみたいです。
お酒造りを熱心にお教えいただいた常山専務、青山氏ありがとうございました!
そういえばCasa(カーサ)や海月(クラゲ)でも常山のお酒を飲んだことを思い出した。この街には日本酒が当たり前に振る舞われる環境があることに驚いた。ハードルの高いイメージがあった日本酒、福井県では身近なものとしてユースカルチャーに溶け込んでいる。
福井 MUST GO
TSUGI TOURISTORE(ツーリストア)
福井県鯖江市河和田町19-8
12:00-18:00(土日は11:00-18:00) 定休日:火・水
TEL 0778-25-0388 info@touristore.jp
HP
和紙屋 杉原商店
福井県越前市不老町17-2
第4土曜日 9:00-12:30 / 13:30-17:00 完全予約制
TEL 0778-42-0032 sugihara@washiya.com
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FLAMINGO RECORDS
福井県福井市羽水2-132
12:00-20:00 定休日:木
TEL 0776-33-6050 info@flamingorecords.net
CASA
福井市福井県福井市中央1-21-39 2F
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海月(くらげ)
福井県福井市順化1-10-2
17:00-23:00 定休日:日
TEL 0776-22-7776
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常山酒造合資会社
福井県福井市御幸1-19-10
TEL 0776-22-1541
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ONE PARK FESTIVAL 2021
延期開催日:2021年11月13日(土)14日(日)
中央公園 / 福井県福井市大手3-11
TEL 0776-22-1541
HP
Photos : Kateb Habib
Words : オステアー クリストファー