ポップス、ジャズ、カントリーなど、様々なジャンルで異彩を放つ女性アーティストを追いかけたドキュメンタリー映画を紹介。社会が求める女性らしさと戦いながら、自分らしさを貫こうとしたアーティストたちの姿が浮かび上がる。なお、ご紹介する『BILLIE ビリー』と『AMY エイミー』は、ピーター・バラカン氏監修・作品選定による音楽映画祭<Peter Barakan’s Music Film Festival>で上映中。こちらもぜひお見逃しなく。
1. 『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけてる』
インターネットにアップロードした曲が話題になってレコード会社と契約を交わし、デビュー・アルバムで一躍新世代のアイドルに。そんなSNS時代を象徴するアーティストがビリー・アイリッシュだ。13歳でデビューして、18歳でグラミー賞を受賞。今世界で最も影響力のあるティーンエイジャーとも言われているビリーの素顔に迫った本作は、驚くほどオープンに彼女の私生活を垣間見せてくれる。そこで重要な存在が家族だ。ほとんどの映像に家族が登場。特に一緒に曲作りをしている兄、フィアネスの存在は大きい。曲作りはフィアネスの部屋で行われ、お互いに遠慮なく意見をぶつけ合い、時にはふざけて笑い転げる。そんな2人が宅録で使用しているのはAudio-Technicaのヘッドホン! 共に俳優の両親は、いつも子ども達に寄り添って意見を交換している。ビリーは学校には行かず自宅学習で育ったが、ビリーいわく「1曲の歌のような家族」が彼女をサポートしていて、ビリーが自分の内面から湧き上がる「ダークな感情」を音楽で表現しながらも、そこに飲み込まれないのは家族の助けがあればこそ。セレブの華やかさとは無縁のアットホームな家族に支えられながら、ポップスターという重荷を受け入れて世界と向き合うビリーの等身大の姿が描き出されている。憧れのジャスティン・ビーバーと初めて対面した時、ポップスターではなく、1人のファンに戻って大喜びする姿も微笑ましい。
INFORMATION
ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけてる
2021年6月25日より、新宿ピカデリー他、全国ロードショー
原題:Billie Eilish/THE WORLD’S A LITTLE BLURRY
監督:R・J・カトラー
出演:ビリー・アイリッシュ、フィニアス・オコネル、パトリック・オコネル、マギー・ベアード、ジャスティン・ビーバー
2021年/アメリカ/140分
配給:シンカ
宣伝・提供:Eastworld Entertainment
©2021 Apple Original Films
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
オフィシャルHP
2. 『BILLIE ビリー』
伝説的な女性ジャズ・ヴォーカリスト、ビリー・ホリデイ。薬物やアルコール依存に苦しみながら44歳の若さで亡くなったビリーの生涯は、どこか暗いベールに包まれている。そんな彼女の真実に迫ろうとした女性ジャーナリストがいた。リンダ・リブナック・キュールはビリーの伝記を書くために、1960年代から10年間に渡って生前のビリーを知る人々に取材。しかし、次第に何者かに妨害されるようになり謎の死を遂げる。そのリンダが残した膨大な取材テープをもとに、貴重な映像で構成されたドキュメンタリーが本作だ。アーティ・ショウ、カウント・ベイシー、チャールズ・ミンガス、トニー・ベネットなど著名なジャズ・ミュージシャン達をはじめ、デビュー当時のミュージシャン仲間や恋人、ビリーを麻薬の不法所持で逮捕した捜査官、ビリーが服役した刑務所のスタッフなど、様々な人々の肉声がビリーの人生を赤裸々に浮かび上がらせる。子どもの頃から男性と殴りあいの喧嘩をするくらいタフで、男性だけではなく女性とも恋に落ち、恋にもドラッグにもとことん溺れて傷つきながら歌い続けたビリー。彼女をそこまで駆り立てたものは何だったのか。ビリーの素顔に迫ると同時に、彼女に取り憑かれたリンダの物語が加わることで謎解きをしているような面白さがある。
INFORMATION
BILLIE ビリー
7月2日(金)~7月15日(木)、角川シネマ有楽町【Peter Barakan’s Music Film Festival】にて上映
脚本・監督:ジェームズ・エルスキン
プロデューサー:バリー・クラーク・エワーズ、ジェームズ・エルスキン、ロール・ヴェッセ、ヴィクトリア・グレゴリー
製作総指揮:アレックス・ホームズ ソフィア・ディリー ウィル・クラーク アンディ・メイソン マイク・ルナゴール ディーパック・ネイヤー
撮影:ティム・クラッグ
編集:アベデッシュ・モーラ
出演:ビリー・ホリデイ、リンダ・リップナック・キュール、シルビア・シムズ、トニー・ベネット
配給・宣伝:マーメイドフィルム コピアポア・フィルム
宣伝:VALERIA
原題:Billie/イギリス/2019年/98分/B&W、カラー/英語/ヴィスタサイズ/5.1ch/
3. 『AMY エイミー』
デビューした途端にトップに駆け上り、ミック・ジャガーを始め様々なミュージシャンに歌声を絶賛されながらも不運な最後を迎えた悲劇の歌姫、エイミー・ワインハウス。その短くも波乱に満ちた人生を振り返ったのが本作だ。ここには音楽に愛された1人の少女が、その才能ゆえに追い詰められていく姿が描き出されている。メディアが書き立てるゴシップによって、自由奔放に生きるスキャンダルの女王のようなイメージを与えられていたエイミーだが、プライベートな映像で構成された本作を見ると、ずば抜けた歌の才能を除けばエイミーはごく普通の明るい女の子だったことがわかる。しかし、歌手としての突然の成功が彼女の人生を大きく変えた。群がるマスコミ、休む暇もないスケジュールに苦しめられ、家族も友達も誰も彼女を守ってくれない。そんななかで出会った「理想の恋人」にドラッグを教えられ、さらに自体は悪化していく。歌うことが好き。それだけで自分を守る術を知らなかったエイミーは、ポップスターとして生きていくにはあまりにも無防備すぎた。観ていて辛いところもあるが、彼女の歌は生命の輝きそのものだったことがわかるだろう。
INFORMATION
AMY エイミー
7月2日(金)~7月15日(木)、角川シネマ有楽町【Peter Barakan’s Music Film Festival】にて上映
監督:アシフ・カパディア
製作:ジェームズ・ゲイ=リース ポール・ベル
製作総指揮:デビッド・ジョセフ アダム・バーカー
編集:クリス・キング
音楽:アントニオ・ピント
出演:エイミー・ワインハウス、ミッチ・ワインハウス、マーク・ロンソン、サラーム・レミ、トニー・ベネット
2015年製作/128分/G/イギリス・アメリカ合作
原題:Amy
配給:KADOKAWA
『AMY エイミー』発売中
Blu-ray 5,217円(税込)/DVD 4,180円(税込)
発売元:KADOKAWA
販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2015 Universal Music Operations Limited.
4. 『ミス・アメリカーナ』
子どもの頃からカントリー・ミュージックを愛し、乗馬が好きで、クリスチャンだったテイラー・スウィフトは「ミス・アメリカーナ」という言葉がぴったりだ。16歳で発表したメジャー・デビュー・アルバム『Taylor Swift』が大ヒットを記録。カントリーというジャンルを飛び出して、ポップスターとして人気を集めてきた彼女のキャリアを振り返ったのが本作だ。「みんなに良い子だと思われたかった」と少女時代を振り返るテイラー。しかし、その優等生ぶりが世間で叩かれることになる。そんななかで、型にはまった「女性的な美しさ」を求められることや、カントリー出身のアーティストが政治的な発言をするのがタブーになっていることに疑問を感じるようになったテイラーは、積極的にメッセージを発信するようになっていく。なかでもツイートで民主党支持を表明して、反トランプ姿勢を打ち出したのは物議を醸し出したが、そのツイートを発信する瞬間の映像も本作には収録されている。映画のなかでテイラーはよくスマホを手にしているが、カントリー界で初めてMySpaceを立ち上げるなど彼女はSNS世代の到来を告げる革命児だった。「常に計算していないと前に進めないけど、計算高い女性は嫌われる」と苦笑するテイラー。笑顔を振りまくだけではなく、目の前に立ちはだかる様々な問題と向き合い、信念を持って歌うことを決意したテイラーの覚悟が映画から伝わってくる。
INFORMATION
ミス・アメリカーナ
Netflix映画『ミス・アメリカーナ』独占配信中
監督:ラナ・ウィルソン
製作:モーガン・ネビル ケイトリン・ロジャース クリスティン・オマリー
撮影:エミリー・トッパー
編集:グレッグ・オトゥール リンゼイ・ウッツ ポール・マーチャンド リー・ロッシュ ジェイソン・ゼルデス
音楽:アレックス・ソマーズ
出演:テイラー・スウィフト
2020年製作/85分/アメリカ
原題:Taylor Swift: Miss Americana
詳細はこちら
5. 『ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハード』
世界で初めての女性だけのパンク・バンドであり、のちの女性ロック・ミュージシャンに大きな影響を与えたスリッツ。その独創的なサウンドで、パンク/ニューウェイヴ・シーンを駆け抜けた彼女たちの知られざる歴史を振り返る。彼女たちがロンドンでバンドを結成したのは、パンクという革命的なムーヴメントが盛り上がっていた76年のこと。メンバーの2人はイギリスのパンク・シーンを代表するバンド、クラッシュのメンバーと付き合っていて、リーダーのアリ・アップの母親は、裕福な家に生まれながらアートにのめり込み、売れないアーティストのパトロン的な存在だった。パンク・シーンの真っ只中にいた彼女たちは、パンクのDIY精神に刺激されてバンドを結成。見よう見まねで楽器を演奏して曲を作るようになる。そして、パンクというスタイルにこだわる男たちとは対照的に、彼女たちはレゲエやアフリカ音楽など様々な要素を取り入れて独自のスタイルを作り上げていった。マッチョなパンク・シーンで子ども扱いされながらも、男たちよりも軽やかにジャンルの壁を乗り越えたスリッツの音楽は、今こそ評価されるべき。音楽に負けないユニークなファッション・センスも新鮮だ。
INFORMATION
ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハード
監督:ウィリアム・E・バッジリー
製作:ウィリアム・E・バッジリー マーク・ベニス
製作総指揮:テッサ・ポリット クリスティン・ロバートソン ジェニファー・シャガワット フィル・ハント ゲイリー・フィリップス コンプトン・ロス
脚本:ウィリアム・E・バッジリー
撮影:ウィリアム・E・バッジリー
編集:ウィリアム・E・バッジリー
出演:ドン・レッツ、ヴィヴ・アルバータイン、ポール・クック、アリ・アップ、デニス・ボーヴェル、テッサ・ポリット、ケイト・コラス、バッジー
2017年製作/86分/G/イギリス
原題:Here to Be Heard: The Story of the Slits
配給:ビーズインターナショナル
ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハード
BD/DVD好評発売中
発売元・販売元:キングレコード
©Here To Be Heard Limited 2017
自宅でも高音質で豊かな映画・ドラマ鑑賞を。 ATのおすすめヘッドホン5選
Words:村尾泰郎