“アナログ”がもたらす価値や魅力にフォーカスした、オーディオテクニカ(以下、AT)発のグローバルプロジェクト『Analogue Foundation』。今回、Analogue Foundation公式YouTubeチャンネルにて、サウンドシステムカルチャーを紹介するドキュメンタリー動画『SOUNDSYSTEM CULTURE:Channel One』が公開中!
本作はBBC、Absolute Radio、RBMAといった数多くのプラットフォームで番組制作/ホストとして活躍し、また「最高の音響でレコードを聴く」をコンセプトに開催されているリスニング・イベント<Classic Album Sundays>をオーガナイズしているコリーン・コスモ・マーフィ(以下、コリーン)が水先案内人となり進んでいく。
コリーンは、ニューヨークのアンダーグラウンド・クラブシーンの創始者デヴィッド・マンキューソ(2016年没、以下マンキューソ)に25年近く師事し、後のシーンに絶大な影響を与えたマンキューソ主催の伝説的なパーティ<The Loft>をホストとして長年サポート。マンキューソの徹底的なオーディオへのこだわりのみならず、音楽との向き合い方、そして理想的なパーティとはどんなものなのかという、彼のスピリットを正当に継承する人物としても知られている。
例えば、レコードを最初から最後までかけきるというマンキューソのユニークなDJスタイルを、彼女は前述の<Classic Album Sundays>で受け継いでいる。最高のオーディオ設備で1曲1曲を最初から最後まで丁寧にリスニングし、「アルバム」というひとつの作品が持つ世界観を掘り下げていくのだ。今やこのイベントは世界15都市で開催され、世界で最も有名なリスニング・セッションとして、熱心な音楽ファンたちからリスペクトされている。
伝統を現在へ、そして未来へと繋げていくことに人生を捧げてきた彼女が、ロンドンで最も有名なサウンドシステムのひとつである「Channel One」の秘密を探るべく、彼らのもとへ足を運ぶ。
UKを代表するサウンドシステム「Channel One」
イギリス(以下、UK)のサウンドシステム「Channel One」は、ロンドンを拠点に活動するセレクターのマイキー・ドレッド(以下、マイキー)とMCのラス・ケイレブ(以下、ラス)によるレゲエ、ダブのサウンドシステム。ヨーロッパ最大級のストリート・フェスとして知られる<ノッティングヒル・カーニバル>へ30年連続で出演。世界的に有名なアリーナであるウェンブリー・アリーナ(現在の正式名称はSSEアリーナ・ウェンブリー)では、レゲエのサウンドシステムとして初めて公演を実現させた。その輝かしい功績は数知れず、名実ともにUKを代表するサウンドシステムとして知られている。世界中にレゲエ・サウンドの魅力を伝えるべく、ワールドツアーも積極的に行っていて、2017年には日本でも来日公演を行った。ジャングル、ベース・ミュージック、ダブステップのアーティスト勢とパーティーを開催したり、伝統的なレゲエ、ダブのサウンドシステムと新しいサウンドシステムをつなげる役割も果たしている。
いまだ現役で精力的に活動を続けている彼らのスタートは1979年にまで遡る。
いわゆるウィンドラッシュ世代(第2次世界大戦後にジャマイカ等のカリブ海地域の英領から英国に移住した最初の移民たちと、その子どもたちのこと)として、UKに移住してきた父親のサウンドシステムを受け継いだマイキーとジャーティ兄弟が、キング・エドワーズというサウンドシステムのオーナーから、特大のアンプを購入したところから彼らの物語は始まる。彼らがつけたクルー名「Channel One」は、ジャマイカの有名なレコーディングスタジオに由来している。
DIYで音響システムを組み上げ、野外でダンスパーティーをおこなうサウンドシステムのカルチャーは、1940年代にジャマイカのキングストンで生まれたもの。このジャマイカのオリジナルなカルチャーを、マイキーとジャティ兄弟の父親世代は、同地の素晴らしい音楽の数々とともに、UKへ持ち込んだ。この宝物のようなカルチャーは、後にパンクロックをはじめ、様々なUKの音楽と結びつき、新たなサウンドを形成してきた。
サウンドシステム、「それは自由を意味する」
マイキーはサウンドシステム「Channel One」が誕生したときのことを語り始める。父親からサウンドシステムを受け継いだこと、近所に住んでいたキング・エドワーズというサウンドシステムのオーナーから特大のアンプを購入したこと、また母親がそれを「即決で買いなさい!」とアドバイスをしたこと等、どれも貴重なエピソードだ。
「受け継いだものを生かし続けるのはどれだけ重要ですか?」というコリーンの問いに対し、
「とても重要です。なぜなら、これしかないので。万人受けが重要なのではなく、やりたいことをやっています。職人のようなもので、自分で音響システムと音を作り上げ会場を盛り上げます。40年前の夢が叶った、喜びの瞬間ですね」と答えるマイキー。
また、ラスはこう語る。「手作りのものは完璧じゃない。人生も同じ。生まれ育った環境も様々。私たちは裕福な家庭に生まれ育ったわけでもなく、標準以下の家庭でした。でもそれがサウンドシステムの味になっています。昔ながらの音を保っているのです」
まさに「サウンドの職人」といった言葉がふさわしい彼らの言葉は質実剛健。彼らが放つサウンドのように、とてもシンプルで、純度が高く、だからこそ心を揺さぶる力がある。
さらにコリーンは彼らのプレイスタイルについても、「ターンテーブルはひとつしか使いませんよね?ヘッドホンも使わない。どうしてですか?」と切り込んでいる。マイキーの答えはこう。「一度にひとつの音楽しか聴けないからです。音楽を理解し、念入りに準備しすべてを頭に入れているから、一度にひとつの音楽で十分です」
サウンドシステム「Channel One」のスタイルは、レコードを途切れずにつなげていく、我々がよく知るDJミックスのスタイルではなく、1枚1枚を丁寧に聴かせ、そこにMCが即興でメッセージを加えていくというもの。伝統的なジャマイカのサウンドシステムのスタイルを崩さないのが彼らの流儀だ。
「あらゆる楽器の音が聴こえるように、すべてのセッティングには理由があります」と話すラスは、システムの秘密についてこう明かしている。「大体が4ウェイ(音域の違うスピーカーを4つ組み合わせ、構成すること)ですが、私たちは5ウェイです。ベース、ハイベース、ミッド、ハイミッド、トップ。ハイミッドを加えることで、少しボイスがプラスされ、ミッドとトップだけの時より遥かに音がクリアになります」
時に寝ることも食べることも忘れるほど、いつもサウンドシステムのことを考えていると語る2人。40年以上もその情熱を絶やさず、活動を続けている。
「サウンドシステム文化は、すでにライフスタイルですよね?お二人にとってお仕事というよりも人生そのものですよね」というコリーンの投げかけに、「それは自由を意味します」と返すマイキー。その言葉の真意とは……?
Analogue Foundationとは
記憶に残る体験創出とアナログサウンドの探求を目的に始まった、AT発のグローバル・プロジェクト。アナログという共通の価値観で繋がったファウンダーには、ディアンジェロ、エリカ・バドゥ、コモンらのレコーディングエンジニア・プロデューサーとして知られるラッセル・エレバードと、ニューヨーク、ベルリンを拠点とし、パティ・スミスとのコラボレーション作品で知られるサウンド・アート・プロジェクトサウンドウォーク・コレクティヴが参加している。これまでに、Fabricのミュージックディレクタークレイグ・リチャーズ主催の<Houghton Festival>への参加や、ハイファイサウンドシステムを取り入れたロンドンでのポップアップイベント<Giant Steps>の開催、南米のアマゾンとコンクリートジャングルNYの9ブロックを音で繋げるプロジェクト<Jungle-ized>への参加、また若手アーティストへの音楽制作ワークショップ等、世界中様々な場所でアートと音楽の分野を中心に活動している。